ふたりぼっちのワンダーランド | ナノ

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何やかんやあり、赤髪の技で決着がついた。
結果味方側に付いたツヴァイによると、ディツェンバーという魔族がこの国の王を騙して魔王を復活させようとしているらしい。

俺達はヤヌアの魔法で次元の狭間から抜け出した。節々が痛い。
ルキのゲート?知るか、何でわざわざ俺だけが辛い思いしないといけないんだ。
赤髪が全員のダメージをある程度肩代わりしたらしいが。

「しかしディツェンバーか…」
「知っているのか?」
「ディツェンバーなら俺も知ってるよ」

二人の知り合いかと思ったが、単純に有名な奴らしい。
四大魔として恐れられてる奴の一人だとか…今はそんなのがあるんだな。
ヤヌアがその四大魔とかいう魔族の名前を挙げていく。

ギルティ・ジャスティス。
エルフ・ノベンバー。
ディツェンバー・ツヴォルフ。

「――の、三人!」
「…………」





ユーシャさんの背中をぽんぽんと叩いていると、後ろから声を掛けられた。

「アルバくーん、やっぱボク戻ったよー」
「フォイフォイさん?」

振り返ると、ゆるキャラのようなフォイくんが其処に居た。

「せやでー」
「!?」
「フォイくん、タートルのご当地キャラでも目指すの?」
「ああうん、確かにそれっぽく見えなくもないけど!!」

ゆるキャラフォイくんは腕から刃物を出して駆け出した。
反射的に短剣に手を掛けると同時に、何故かゆるキャラフォイくんは減速する。
やがてぽてぽてと歩みを止め、完全に脱力すると、びりっと顔の部分を破いた。

「天晴れや。俺の…負けや」
「誰!?」
「えっ、中の人見せちゃうの?」
「エノちゃんー多分キャラクターとかじゃないよーあの着ぐるみはー」

中から現れたのは褐色肌の男の子だった。
完敗だと微笑むゆるキャラくんに、ユーシャさんは曖昧に頷いた。

ゆるキャラくんは、賞金目的でユーシャさんに近付いたらしい。
一時休戦と言って手を差し出す、その表情は親しみのある快活な笑みだ。

「握手!」
「あー、うん…」

ユーシャさんも手を出して、ゆるキャラくんのそれを握った。
すると、急にチチチチッと何かを刻む音が響きだす。

「アホめ、引っ掛かったな!!この着ぐるみには爆弾を仕込んであるんじゃ!!」
「逃げようエノ!」
「だーっしゅ」
「え、あ、待」

幸い簡単に手は解けたので、急いでその場を離れる。
数瞬後、アニメみたいな爆発音と風が後方から襲ってくる。
振り返れば、黒い肌を更に黒くさせたゆるキャラくんが倒れ伏していた。
一応無事だったらしいゆるキャラくんは、むくりと起き上がると両手を挙げた。

「敵ながらその強さ、天晴れやで。解った、今度こそホンマ降参や」
「ええ…」

おお、これが戦わずして勝つというやつだ。勝利だよユーシャさん。
煮え切らない顔のユーシャさんに、ゆるキャラくんは解ってると頷いた。
なんと命を狙ったお詫びをしてくれるらしい。

「確かお二人さん、街に入りたかったんよな?オレに任しとき!」



結果としては、捕まってしまった。
ケンタウロスの仮装をしたんだけど、うん、上手く行かなかったね。残念。

「な!入れたやろ?」

バチン、とウインクを決めてみせるゆるキャラくん。
それを見て、放心状態だったユーシャさんはふらりと立ち上がった。

「入れたって言わねえよ!!」
「ぶふう!!」

ユーシャさんは見事に綺麗な平手打ちを披露してみせた。

「ドヤ顔してんじゃねええ!!」
「待ってくれ…ドヤ顔なんかしてへんで。ドヤ顔ってのはこういう顔やろ?」
「うぜえ!!」

おお、凄い的確な顔の作りだ。
思わず感心していると、ユーシャさんは再び地面に項垂れてしまった。

「ちくしょうまた此処かよ!!もう世界全部救っても、取り返せないくらいの前科付いてるよおおおうう」
「大丈夫だよユーシャさん、まだ三回目だよ」
「全然まだの範囲じゃないよ!!お先真っ暗だよ!!」
「アルバさん…」

一応、レイシーから聞いた一回目以外は冤罪なんだけどなあ。
ゆるキャラくんが申し訳無さそうに、ユーシャさんの背中に声を掛けた。

「恋愛での失恋って、恋は失うのに…愛が残っちゃうから、厄介なんだよね…」
「えっ凄い。深いね」
「今関係無いだろ!!」
「ふふん」
「うぜえ!!」

ゆるキャラくんによる、再びの見事なドヤ顔。
多分ユーシャさんを元気付けようとしてるんだよ。うん。
そう言うとユーシャさんは涙目でゆるキャラくんを睨み付けた。

「まあまあ落ち着いてアルバさん、安心してーや。あーっとエノちゃんやったか、君もな。アルバさんの連れやった知り合いの人は遠くからしか見てへんかったから上手に出来んかったけど」

がるる、と噛み付くようなユーシャさんに、ゆるキャラくんはへらりと笑った。
ゆるキャラさんが、自分の顔に手を翳す。

「今度は大丈夫。近くではっきり見て記憶したから――」

スライドした左手の向こうに、思わず目を丸くした。
手元の鍵がちゃりんと揺れる。

そう、その顔は、まるっきり――――

「牢屋のカギとアルバさん」

ぎょっとしたユーシャさんの目の前に鍵が投げ出され、慌ててキャッチした。
ゆるキャラくんが此処でユーシャさんの代わりをしてくれるらしい。

「ああ、オレこういう特技あるんよ。一瞬で着ぐるみ作れるいうね」

呆けた視線を集めている事に気付いたのか、ゆるキャラくんはそう答えた。
自ら引っ張ったユーシャさんそっくりの顔がビヨンビヨンに伸びる。
確かに、ゆるキャラフォイくんの着ぐるみを作るにしても普通は時間が必要だ。
しかもそれだけじゃなくて、声もそっくりそのままだ。
凄い。ゆるキャラくん改め、スーパー早業着ぐるみさんだ。

私の分もすぐ用意出来るから、やっぱり問題は無いらしい。
うん、じゃあ、大丈夫なんじゃないかな、ユーシャさん。
ユーシャさんは戸惑いつつも頷いた。

「ほらほら驚いとらんとさっさと行きーや」
「お前…名前なんつったっけ…?エルフ…」

着ぐるみさんは、一瞬目を瞬いた後、ふっと笑みを浮かべた。

「オレの名前は、エルフ・ノベンバー」

また何処かで会えたらええね。


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