ふたりぼっちのワンダーランド | ナノ

17頁


お隣さんことやっくんは無事だった。
やっくんに忍者の話をしたらすっかり打ち解けて、やっくんと呼ぶ事になった。
ルキちゃんが魔界からボールを持ってきたので、今は皆でドッジボール中だ。
ユーシャさんは参加しないのかな、さっきから無言で眺めてるけど。

「ドッジボールしてる!?」

と思っていたら、唐突にくわっと叫んだので走るのを止めた。

「何ドッジボールしてるの!?傷はもう治ったの!?」
「え?うちの地域じゃドッヂボールだったな。ジじゃなくてヂな」
「どっちでも良い!!」
「ドッヂだけにどっちでも良いってか」

おお、上手いな。前もこんな感じの事言ってたな。
ユーシャさんは笑点に出たら沢山座布団貰えそうだ。

「つか何でドッジボールしてるんだよ!!」
「え?楽しいからだけど?」
「何その上から目線!?ドッジしてる余裕なんかあるの!?」
「そういえばユーシャさんずっと落ち込んでたし、聞いてなかったのかな」
「え?」
「実は大した傷じゃなかったんですよ。これです」

やっくんは懐から小刀を取り出した。
魔界に居るやっくんの古いお友達がくれた物らしい。
丁度真ん中の辺りには、不自然に目立つ穴が空いている。

「胸ポケットに入れていたこれに触手が当たり盾の役割を果たしてくれたのです」
「いやいやいや、背中から貫通してたよ!?」

やっくんは涙ぐんで空を仰いだ。

「ありがとう、鮫島」
「誰!?」
「やっくんのお友達だよ?」

良いってことよ、とイケメンボイスな幻聴が聞こえた。気がした。

ふとルキちゃんが何かに気付いて壁の穴を見た。向こうに人影が見える。
逆光に目を細めながら、その正体を確認して。

「おじいちゃん!」
「あ、ルドルフさんだ」
「おぉ、ルキたん!それにエノちゃんまで居るとは。いやあ奇遇だね」
「本当に知り合いだったんだ…」

ルドルフさんは魔女さんを縄でぐるぐる巻きにしていた。
外が騒がしいなと思ってたら、ルドルフさんが魔女さんを捕まえていたようだ。

ルドルフさんは真っ先にルキちゃんの無事を確認して微笑んだ。
流石小さい女の子の笑顔の為に命を掛ける人だ。
何故か急に葛藤し始めたルドルフさんに、ルキちゃんと一緒になって首を傾げた。

「おいおい何だ、もう終わったのか?オレの出番は無しかよ…」
「お前!」
「よう45番。まさか俺をぶち忘れたとか言わねえよな?」

後から現れたのは、金髪金眼で顔に一文字の傷が入った男の人。
45番とはユーシャさんの勇者ナンバーだ。どうやら知り合いらしい。
ただこの人、凄いボロボロだけど、病院行かなくて大丈夫なのかな。

「どした!!!??」

全くである。ユーシャさんのツッコミに深く頷いた。
どうやらルキちゃんが言うには、こいつが例のレイシーを傷付けた奴らしい。
へえ、そうなんだ。こいつが、ねえ。

「てい!」
「うごっ!?」
「重傷者に何してんの――――!!?」
「だってこいつレイシーを九死に一生なんて目に合わせたんだよ?」

そう思ったらムカムカしたので一発お見舞いしてやった。ふふんどうだ!
やっぱりちょっとくらい仕返ししてやらないと気が済まなかったんだよね。

「これ以上やったらレイシーが悲しむし、これでチャラにするから大目に見てね」
「むしろあいつならもっとやれと煽りそうでもあるけどな…」

ユーシャさんが殴ったりしたらそうなんだろうな。私は曖昧に微笑んだ。
レイシーは私がこういう事をするのがあんまり好きじゃないみたいだから。
ユーシャさんがちょっとだけ羨ましいと思うのは此処だけの秘密だ。

お城に居る筈の14番さんが此処に居るのは、王様が黒幕だったかららしい。
14番さんとルドルフさんは王様に殺されかけて逃げてきたのだそうだ。

「それでこんなボロボロに…?」
「まさか私の呪いが本当に掛かっちゃったとか?」
「呪いって何!?」
「いや、それはヒメちゃんがやったんだよ」
「ルドルフさん!!」

ヒメちゃん?とユーシャさんが首を傾げると、重い金属の音が近付いてきた。
ガシャンガシャンとやって来たのは巨大な鎧だ。弟の魂が入ってそうだ。
中から聞こえるのは、見た目に反して可愛らしい女の子の声。

「ちょっ!ちょっとそれは言わない約束で…」
「ヒメちゃんはあれだ、ツンなんだよ」
「はあっ!?」

鎧さんことヒメちゃんさんが必死になっていると、更に現れた新たな人。
青い髪に白いリボンを付けた、スラっとした体型の格好良い女の人だ。

「ヒメちゃんはね〜、フォイフォイの事好きなんだよ!」

え、そうなの。

「でも気持ちを素直に表現出来なくてヴァ!!」
「何言ってるんですかあああああ!!!??」

ドグシャッ、と鎧さんは華麗な左ストレートを決めた。
まるで格ゲーにでも出てきそうさ凄まじい勢いでヒメちゃんさんは拳を振るう。
みるみる内にお姉さんはボコボコにされていった。抵抗の余地も無さそうだ。

「そんな事!!あああある訳えええええな!なななないじゃないでででで…!!」

ぐぐっ、と込められた最後の一撃が、今放たれる。

「ああある訳無いですよぉぉおおお!!!!」

鉄の拳によるアッパーにより、お姉さんは華麗に宙へと打ち上げられた。お見事。


prev / next

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -