ふたりぼっちのワンダーランド | ナノ

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投獄されてから三日が経った。
今日も牢屋は平和である。

レイシーはユーシャさんと遊んでいて楽しそうだ。
それを見てほわほわしながら私はルキちゃんとお絵描きをしている。
ルキちゃんはルディみたいにゲートから好きな物を持ってこれるらしい。
ただし、同じ世界での移動範囲は50メートルが限度だとか。

「ああもう、忘れてるかもしれないけど、ボクアバラに罅入ってるんだからな」
「アバラ?勇者さんまだそのネタにしがみついてるんですか?」
「ネタ!?」
「一度受けたからって何時までもしがみついてんじゃないですよ」
「いや、受けたっていうかマジでだから」
「何ですか、アバラキャラポジでも狙ってるんですか?」
「狙ってねーしそもそもネタじゃねーし!!」

何故か格好良く決めポーズするユーシャさんが脳裏に浮かんだ。
こんな感じかなあと試しに画用紙に描き込んでみた。
気になったのか手元を覗き込んだルキちゃんがクスクス笑っている。

「ユーシャさん、どう?上手く描けたと思うんだ、アバラマン」
「アバラマンて何!?ってうわ、ええー何このアバラ強調されてる半裸の人…」
「ユーシャさんがアバラマンに変身した姿だよ」
「ボクなの!?」
「決め台詞はアバラボキボキアバラマン!」
「負傷しまくってんじゃねーか!!」

ちなみに周りの部分には、ルキちゃんと一緒にうろ覚えで描いた動物達がいる。
何だかアバラなだけにアンバランスだ。周囲がメルヘンすぎた。
アバラマンはネズミーランドのプリンセスにはなれなかったようだ。
別のページにはレイシーとルディを描いたので、後でレイシーに見せてあげよう。

ユーシャさんは今回の事情が王様に伝わってない事が気になっているらしい。
ルドルフさんが説明してくれてると思うけど、今頃どうなってるんだろう。
この件どう思う、とユーシャさんが神妙な顔でレイシーを見た。
レイシーはうっすらと笑みを浮かべて頷いた。

「はい、ちょー受けます。その服良く来てますよね気に入ってんですか?」
「聞かなきゃ良かった!!」
「大丈夫だよユーシャさん、似合ってるから!」
「嬉しくないし似合ってるとかの問題じゃないし!!」

あれ、フォロー入れたつもりだったんだけどな。
首を傾げていると、お絵描きの手を止めてルキちゃんがぷんすこと立ち上がった。

「ロスさん!アルバくんを虐めたら駄目だよ!」
「ルキ…!!」
「一番の負傷者なんだからね!碌に戦闘に参加してないけども勇者の割に!」
「酷い!!」
「そうですねーちょっとした才能ですよねーぷふー」
「いやボク活躍したし!!戦士を九死に一生から救ったし!!」
「何時だっけ…?」
「覚えてないの!?そりゃ確かに地味だったけど!!」
「ロス、九死に一生って何?」

ぎゅ、とレイシーの服を掴んだ。
ユーシャさんがびくりと震えるのが横目に見えた。
安心させようとしてくれたのか、レイシーは私の頭を優しく撫でた。

「あーいや、ちょっと頭に傷が出来ただけだ。すぐに直したしな」
「誰がやったの?私仇を討ってあげるよ」
「落ち着いてエノ戦士まだ死んでないから!!」
「じゃあ仕返しする」
「仕返しもしなくて良いから!!ねっ、ねっ!?」
「そうだぞ。エノが何かする必要ないだろ。あいつ今頃城に引き取られてるしな」
「そっか。ロスがそう言うならしょうがないね、残念」

レイシーにこれ以上迷惑掛けるのも嫌だし、渋々引き下がった。
せめてレイシーを傷付けたというヤツが思いっ切り痛い目に遭えば良いと思う。

むすりとしていると、ルキちゃんがはっとして牢屋の外を見つめた。
どうやら何かを感じ取ったらしい。大きな魔力が近くにあるそうだ。
数値にすると魔戦闘力というものが53万だとか。第二形態を残してそうだな。
ちなみに解りやすく言うと大体東京ドーム4個分らしい。…うん?

「気を付けて。この規模の魔戦闘力を持つ者という事は…」

恐らく、12人の魔族の一人。

ルキちゃんが告げるや否や、鎖の音が遠くから響いた。
冷たい灰色の通路が、段々と近付く足音を次第に大きく反響させていく。

「これはこれは、魔王ルキメデス様じゃありませんか…」

ぬっと現れた影に振り返る。飴を転がす音がした。

「こんな所でお会い出来るとは光栄の極み、でござる」

さらりとした黒髪で、右目が隠れた男。左目の下には模様がある。
そいつが、鉄格子の向こうで笑みを浮かべていた。

「ルキ、」
「こいつは…ヤヌア・アイン」

ヤヌア・アインは、不敵な表情でガリッと飴を噛み砕いた。
ユーシャさんは顔を青褪めさせている。魔力に充てられたのだろうか。
レイシーがさりげなく相手の視界から私を隠した。
多分、念の為ってだけだと思うけど。

思いっ切り看守さんに捕まって、手枷はめられてるからね。

「強そうにしてる割に間抜けだな」
「この国の兵士さんって凄いんだね」
「凄いというか何というか…」


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