ふたりぼっちのワンダーランド | ナノ

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目を覚まして一番最初に視界に映ったのは、真っ赤な瞳だった。

「んー…??んー…、はよ、レイシー。素敵な朝だね…ふあ」
「おはよう、エノ。もうすぐ日が暮れるけどな」
「そっか。素敵な夕方だね」

起き上がってしばらくぼんやりしていると、レイシーが手櫛で髪を整えてくれた。
そろそろ夕御飯の時間らしい。ユーシャさんがさっき呼びに来ていたとか。
そういえばお腹が空いたかもしれない。お腹が空くのも久々だ。

部屋を出て下の階に行くとユーシャさんとルキちゃんがお喋りしていた。
あ、起きたんだ、おはよう。
こっちに気付いた二人が手を振ったので、私も振り返しながら二人の方へ向かう。
ちょっとだけ、ほっとしたような顔で迎えてくれた。

宿の食堂で、四人でご飯を食べた。とても賑やかな食卓だった。
こんなに賑やかに食事したのは、千年前よりももっと久々だ。
ちょっとだけホームシックになったけど、何だか凄く幸せだった。

「エノさんあんまり食べないんだね」
「前はもっといけたんだけどな。食べてない間に胃が小さくなったのかも。残念」
「エノ、パフェってのが凄く美味いんだ。それが食べられるように頑張れよ」
「うん、なんか勿体無いし頑張る。もっと色々食べたいもん」
「それは良いんだけど、お財布に優しい範囲でお願いします…」

ユーシャさんはとても切実そうだった。

食事を終えた後は、ユーシャさん達の事について聞いた。
寝る前にレイシーから聞いた話の復習と補足みたいな感じだった。

ルキちゃんは間違えて人間界に放ってしまった魔物を封印する為に旅をしていた。
王国から派遣されたユーシャさんとレイシーは、彼女に協力する為同行している。
そうしてまず訪れたこの町で私に出会ったそうだ。

ちなみにこの町にはルキちゃんが出した被害届を取り下げる為に来たらしい。
被害届って?と訊いたら、ユーシャさんが必死に誤魔化したので詳しくは不明だ。
その用事は街に着いて一番に済ませていて、すぐに出発する予定だったそうだ。
レイシーに会えたのは本当に運が良かった。千年後に来てから良い事だらけだな。

「エノも旅をしてたんだよね。戦えないのに一人旅って危険じゃなかった?」
「そうでもないよ。この国の人皆親切だったし」
「相変わらず危なっかしいなお前」
「そんな事ないもん。移動は馬車とか乗せてもらったし、色々くれたし、」

指折り数えてしてもらった事を上げていく。うん、本当に良い人ばかりだ。
何故かレイシーは凄く深くて長い溜め息を吐いていた。どんよりとした感じだ。
ルキちゃんも何か心配そうなものを見る目だ。私と同じ一人旅だったんじゃ?
馬車かー、そういう手もあったかー、と頷いているのはユーシャさんだけだった。

「とにかくエノは、俺から絶ッッッ対に離れるなよ。解ったな」
「うん、約束したから大丈夫」
「街中は当然、宿でもなるべく一人で居ない事。勇者さんでもルキでも良い」
「うん」
「…それと、他人から受け取った物はすぐ捨て…というか、そもそも受け取るな」
「うん、解った」
「戦士は大袈裟だなあ」
「放っとけないんだよ。前に一緒に旅してたっていうし」

でもちょっと大袈裟なのも解る、とレイシーを見ながらルキちゃんは呟いた。
確かに以前と比べると、レイシーはちょっと過保護になったかも。
でも純粋に嬉しい事ではあったから、素直に頷いておいた。



宿の部屋は、丁度良く男女二人ずつ居たので二部屋取ってある。
二人と別れる前に、任せてロスさん!と胸を叩くルキちゃんは微笑ましかった。
ルキちゃんが出掛ける前に、後で沢山お話しようと言っていたので早速お喋り。
どうやらルキちゃんはレイシーの事を知っていたらしい。

「あのね、エノさんも見た事あるんだ。おじいちゃんのアルバムとは別に、パパの写真立てがあって。其処にパパやロスさん…クレアシオンさんと一緒に写ってて」
「わお、写真とか懐かしい。なんか感慨深いな」

千年前の旅の途中、持っていた携帯で写真を撮った事があった。
何となく携帯を触ってみたら、もう何日も充電してない筈なのに何故か起動して、折角だから色々弄ってたら写真大会になって盛り上がったやつだ。
最終的にはレイシーも巻き込んで三人写ったのを撮ったけど、レイシーはあんまり笑ってくれなかったのが残念だったな。
ルディがその写真を欲しがって、レイシーが魔法で印刷みたいな事をしてたから、それが残ってたのかも。ちなみに私はちゃっかり待受にした。

「ルディの子かあ…じゃあルキちゃんは私にとっては妹同然だね」
「エノさんがお姉ちゃん?」
「うん。ルディは私のお母さんだから」
「お母さんなんだ」

だってルディの態度はどう考えてもお父さんっていうよりお母さんなんだもん。
そう言って、二人でくすくす笑った。

「お姉ちゃんかあ」

ルキちゃんがぽつりと呟いた。
ひとりぼっちの顔だった。

「お姉ちゃんて呼ぶ?」
「良いの?」
「良いよ」

頷くと、ルキちゃんはぱあっと顔を輝かせて私のところへ飛びついてきた。

「おねえちゃん!」

ルキちゃんが嬉しそうにそう呼ぶので、私も何だかくすぐったくて顔を綻ばせた。


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