紋章方陣世界ヴェルグラト
ヴェルグラト史

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 紋章方陣世界「ヴェルグラト」は、歴史の末三つの世界に分断されている。それぞれの交流は一方的、もしくはほぼ断絶されており、伝承の内容、真実の認知度も全く異なる独自の世界を構築している。
 ここに記載している伝承、研究報告書、歴史書は、ヴェルグラトにおいて最新、もしくは一番真実に近いとされるものを抜粋している。

目録
地下世界エファピアに残された伝承
地上世界ツァルロス・アークの古代史研究
天空大陸ラフェウスの大高位史






地下世界エファピアに残された伝承

 この世界にはさまざまな種族が共存していた。
  
 我ら知的生命体の祖とも言われるアムイ。好奇心旺盛なデルマスフは、自分の気になるものがあればこの世の果てまで探求する。ムムグムは暗闇に紛れているも、異様な外見と裏腹に臆病で、知恵深い。クケナーは悪戯好きでちょこまかとしているが、なんとも器用な手先ときた。
 羽の生えた人々、フェウスは我らに紋陣をもたらした。
 そして我らが人族。人間だ。
 動物、植物……その種は多岐に渡り、また人間やデルマスフが主体となって作り上げた町々では、紋陣の力を以て地理の不利を克服し、安住していた。
  
 では紋陣とは何か? 今目の前に、同じパターンを連続させた独特の紋様があるはず。そう、今お前達がこの記録を読み解くため発動させた、陣の紋様だ。その紋様の一つ一つに、実は世界の地下を流れる強大な見えざる力が秘められているのだ。
 紋様を正しく描き、そして鍵となるエネルギーを流し込めば、紋陣は描かれた範囲、またはそこから一定距離までに、特殊な力場や地形を作り上げる事ができる。
 繁栄は長く続いた。
 砂漠の中央に、オアシスを作り上げる事も。北の大地に南の島のような温暖な地形を呼び出す事も、容易くなったそうだ。

 そうしていつしか神は、我々生命を見放した。
 大地を引き裂き、マグマを幾重にも吹き上がらせた。空を覆う分厚い雲と頑丈な天蓋を作った。日の光を奪い、天蓋を支える天柱(エングラサード)には凶悪な魔物を住まわせた。
 暗闇の中生き残れるのは嗅覚に優れた獣達。人間を含め、皆散り散りになり、再び集ったのは紋陣を使った堅牢な発電所の傍だ。
 発電所のエネルギーを用いて結界を張り、新たな街を作り上げた。暗闇の世界の中でも生きていけるように。暗闇を天下とする暗獣達に滅ぼされぬように。
 暗獣達に己の身一つで戦う事を選んだヴァンダーン族がいるが、我々はそのような事はできない。発電所が我々の最後の灯火だ。一つ、一つと機能不全に陥る発電所を、もう新たに建造できない。大地からエネルギーを無尽蔵に、半永久的に呼び寄せられるという駆動機関、エンドレスパーツを、この世界のどこからか探し出すしか、道はない。








地上世界ツァルロス・アークの古代史研究

 最近の報告によれば、紋陣はただ紋様を正しく描くだけでは起動しないという。特殊な言葉を鍵とした呪文、もしくは発動条件を満たす事柄を行うか、揃える必要があるようだ。
  
 そもそもなぜ、紋陣があるのか。一番の利点は厳しい地形条件の中でも生き残るため、また安定した地形や気候を手に入れるためと考えられる。
 いつの時代から紋陣のシステムを、古代人達が放棄したのか、またいつ頃から手に入れたのかは定かではない。文献の中に山の神の怒りと書かれてあるところからして、火山の噴火の影響ではないかと思われる。
 しかし、古代人が生きていたとされる、推定六千年前に火山の噴火があった地質的証拠はない。恐らく紋陣によって火山活動までも制御できていたのだろう。素晴らしい技術力だ。
 現に今強大な力を持っている国も、古くからある街や村で見つかった紋様を研究し、紋陣の解明に明け暮れている。他国に知れ渡ればリードされる恐れがあるため、ほとんどが内密に開発を進めている。
  
 現存する種族と、文献内の種族がほぼ一致する中で、二種族、滅んだと思われる種族の文献が発見された。
 山の神とは別に、「神」と呼ばれるアムイ族。そして翼をもち、アムイ族と共に人間やデルマスフの上に君臨していたというフェウス族。
 現在、その二つの種族の姿はどこにも見ない。デルマスフもムムグムも、クケナーも見た事はないという。神を信じないクケナーですら、アムイは昔いたらしいと証言し、彼らの歴史書にも度々出てくるも、現代においてその姿は誰も見た事がない。
 現在公式で発表されている紋陣の種類は僅か百にも満たない。各地で進められている独自の研究の実りが集約され、一刻も早く国際的な危険階級に基づき、正しい運用がなされる事を切に願う。








天空大陸ラフェウスの大高位史

 この天空を統べる大陸、ラフェウスも、その下に在る地上世界ツァルロス・アークも。ひいては地下世界エファピアも、元は一つの高位に存在する同一世界であった。
 この同一世界をなぜ三つに分断したのか。原因は、我らが技術紋陣を、人間やデルマスフが盗み、過剰に酷使した結果にある。
  
 紋陣はマントルから生まれる不可視の魔法的エネルギー、つまり、地流エネルギーを受け取り、紋陣を発動させる力、紋力に変えている。その際、地下世界の高位では過剰にエネルギーを受け取りすぎるため、抑制の弁が必要であった。
 弁の役割を果たしたのが呪文で、これにより発動のタイミングを調整できたのである。
 この呪文の必要性は大高位中、最下位となる地下世界でのみ必要となる。地流エネルギーが少ない地上世界やこの天空大陸では、紋陣を描き、個々の条件を満たせば発動可能だ。
  
 しかし過剰に大地から地流エネルギーを搾取すると、本来地流エネルギーが向かうべき流れを無作為に変え、大地の血管とも言うべき地脈を破壊してしまう。結果過去、地下世界にあった我々の全ての大陸は、火山を噴火させ、大地を全て平らにせん勢いとなり、空を黒い雲が覆い尽くそうとしていた。
 人間、デルマスフ、ムムグム、クケナーなどの、一部の有力な血族が、大陸を雲の上に作り上げ、地下世界の空位での生活が再び可能となるまで避難する事を提案した。そのため我らフェウス族は、無事な大陸を切り出し、天空に浮かせる紋陣を共同開発した。
 それが甘かったのだ。彼らの多くが地上世界へと非難するものと思われていたが、土地が豊富にできあがった地上世界に渡ったのは、デルマスフ、ムムグム、クケナーの大多数、そしてごく少数の人間貴族どもだけであった。
 フェウス族も当然ともに渡ったが、人間が人間に行う非道、そしてあまつさえ他の種族達へも圧政を敷こうとした彼らに愛想が尽きた。
 彼らから紋陣を奪い去るべく、大陸を新たに建造。絶海の大陸グーズと、最初に出来上がっていた大陸の中央部をくりぬいて天空に浮かべ、そこから知の盟族と呼ばれる人間、デルマスフ、ムムグム、クケナー達から紋陣の歴史を抹消した。殺さなかったのは我々からの情けであり、大きな失敗だ。
  
 そして六千年、紋陣が消え去ったはずの地上世界に、再び紋陣が現れてしまった。
 地下世界にまだ生き残った知の盟族たちが、細々と紋陣を使い生き延びていた事は知っている。しかし地上世界の彼らまで紋陣を使っては、地上世界、地下世界共に滅びるほどの地流エネルギーを乱用する事となる。
 どちらか片方を滅ぼさなければ、明日はない。
 天柱(エングラサード)はグーズの真下と、大陸の重心を担う位置に置かれた巨大な柱だが、この柱をどこから落とすべきか、現在論議が分かれている。
 ひとまず、どこから落とすべきか、地上世界と地下世界両方に人を派遣して調べる必要があるだろう。


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