「ヒャハッ、お前泣きすぎだろ!」
『〜ううう…っ』
青道高校卒業式。
3月〇日の今日、それは行われた。
式自体はとっくに終わっており、今は部活単位で集まっている。
わたしはもちろん、野球部のグラウンドにいた。
昨年の夏、先輩たちから部を引き継いだわたしたちは、秋大で優勝し見事甲子園出場の悲願を達成した。
そして、最後の夏。
"第〇回全国高等学校野球選手権大会決勝は、西東京青道高校対〇〇の試合となりました"
"青道高校先発はもちろん、エース降谷"
"青道エース降谷、この回も三者凡退!"
"主砲の一打で青道先制!"
"試合終了!"
"今年の甲子園、優勝はー…"
「なまえ先輩、」
"西東京、青道高校!!"
差し出されたハンカチの先には、この夏の主人公がいた。
『ありがと降谷…』
三年間、部活がんばってきてよかったなあ。
辛いこともたくさんあった。朝は早いし夜は遅いし。土日休みはほとんどないし。
修学旅行にだって行けなかった。
だけどそれ以上に、この部活で得たものは大きい。
『卒業、したくないなあ』
部活は既に引退したし、進路だって決まった。それでもこの場所から離れるのは寂しい。
「…先輩、ちょっと」
いきなり腕を掴まれてその場を二人で離れる。突然のことにびっくりして近くにいた倉持の方を見たら、なぜかガッツポーズをされた。意味わかんないしなんかむかついたから後で文句言いにいく。
みんなとは少し離れたところに来たところで、降谷は手を離した。
そしてわたしの方を振り返る。
あれ、こんな顔してたっけ。
入部当初はヒョロッとしてて、暑さにバテバテで、か弱い印象しかなかったのに。
さすが1年の頃からエースナンバーを背負ってきただけのことはある。
来年もきっと、青道を甲子園へ導いてくれるのだろう。
『…いいなあ。まだ、1年あるのか』
わたしたちの夏は、もう終わってしまった。同じメンバーで、また野球をするなんて、もうできないのかもしれない。
でも、彼にはまだもう1年残っている。
『まだ、卒業、したくなかったなあ』
出てくるのはやっぱりこの言葉だった。未練タラタラだなわたし。
「…だめですよ。…先輩は、先に行っててください」
だって、先輩には夢があるんでしょう。
そう言われて、ハッとした。
わたしの夢。
この部活に入って、なりたいと思った職業。人を支える職業。
「…俺も、卒業されるのイヤですけど、」
すぐに、追いつきますから。
先輩の横に、立てるようになりますから。
だから、
「あと1年、先に行って待っててください」
それは、降谷らしくないとても遠回りな言葉だった。
だけど、2年間、一緒にいたから分かるよ。
『…ん、待ってる』
「すぐ追いつきます」
『甲子園で優勝してきてくれる?』
「当たり前です」
そして先輩、と呼ばれ顔をあげると唇に少しカサついた、降谷のそれが重なっていた。
『…フライング…』
「…今日だけ…」
しかた、ないなあ。
いつまでたってもわたしはこの後輩に甘いのだ。
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「ヒャハ、やっとくっついたかあのバカ共」
「いやーなまえ相当鈍感だったな」
「あんだけわかりやすかったのにな。沢村でさえ気づいてたぞ」
「もっち先輩!なんてことを言うんですか!」
「うるせぇバカ!」
信じる