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御幸先輩と付き合い始めてから、2ヶ月が経った。御幸先輩の「遠慮しねーから」の一言に、覚悟していたわたしだったけど、あれから特に何もなく。

…何もないわけじゃないけど、付き合う前と変わらない。会えば抱きしめてくれるけど、キスをしたのは付き合ったときのあの一回だけ。覚悟してた自分が馬鹿みたいに思えるくらいに何もなかった。

付き合う前と変わらないから、本当に付き合ってるのかどうかも怪しい。悶々としながら今日の部活の片付けをしていく。

「あ、なまえ。おつかれ〜」
『…御幸先輩。おつかれさまです』
「ん。片付けもう終わる?」
『はい』

よかった、と言いながら後ろから抱きついてくる御幸先輩からは、少しの汗の匂い。今日も、がんばってたもんなあ。キャプテンだしなあ。…わたしに構ってる暇なんて、ないよなあ。

「ほんと、疲れが吹っ飛びますよ」
『…それは、よかったですね』

…この瞬間が、好きだ。好きなのに、不安になる。

「…なまえちゃん、どうした?」
『え?』
「なんか言いたそう」

こういうところだ。わたしがどれだけ思ってることを外に出さないようにしても、どうしてかこの人にはバレてしまう。わたしのことをよく見ててくれるんだ。

「言ってみ?ホラ、彼女だろ?」

"彼女"
その一言に、ついに我慢できなくなってしまった。

「…って、え!?オイ泣くなって!」

そんなわたしを見て、珍しくあたふたする御幸先輩。こんな姿みたら、部員のみんな驚くだろうなあ。

『…っ、わたし、彼女でいいんですか?』
「俺は付き合ってると思ってたけど…え?」

そっか、よかった。御幸先輩の中ではちゃんと付き合ってることになってたんだ。

『…だって、御幸先輩、付き合う前と変わらないから…』
「…」
『抱きしめてくれますけど、き、…きすとか、最初だけだったし…』

不安だったんですよ、と次の言葉を言おうとしたのに、それは叶わなかった。

『…んんっ…』

腕をぐいっとひかれて、気付いたときには唇に御幸先輩の唇が重なっていた。
それはどんどん深くなって、角度を変えて何度も重ねてくる御幸先輩に、呼吸が苦しくなって、思わずしがみつく。

「…我慢してたんだよ」
『…』
「今みたいに止められなくなるから…我慢してたんだけど…」
『…』
「なまえがそんな可愛いこと言ったら俺まじで我慢できねーわ」

我慢って…。そんなの、あなたの彼女になったあのときから、覚悟してるのに。

『…わたしも我慢してました。…なので、そんな我慢いりません』
「え」
『我慢するとか御幸先輩らしくないので、やめてください』
「え」
『まずそんな御幸先輩気持ち悪いです』
「…なまえちゃーん、俺彼氏」

そんなことを言ってる御幸先輩に、ぎゅうっと抱きつく。わたしから抱きつくのは、これが初めてだ。

「…うおっ」
『…大好きです』
「…うん」
『今まですごい不安でした』
「…ごめん」
『全部受け止めるので、…我慢とか、しないでください』
「…おう」

「じゃあ今度こそ、まじで遠慮しねーからな?」

そう言ってニヤッと笑った御幸先輩に、ちょっと後悔したのはまた別の話。



「なまえ〜」
『来ないでください』
「え!?なんで!?」
『わたしが窒息死します』
「遠慮すんなって言ったのなまえじゃん」
『限度があります』
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