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6月に入り、夏の本戦に向けて、一軍メンバーを決めるための試合が毎週末組まれるようになった。今日は黒士館との試合である。スコアラーは幸子に任せ、裏で春乃とドリンク作りや相手校の監督へのお茶の準備をしていたら、試合はもう中盤だった。

『あれ……クリス先輩!?』

マネのみんなが集まっているところに向かって行くと、グラウンドにはクリス先輩の姿が。

「そうなの。今さっき交代になったのよ」
『肩大丈夫なんですか?』
「大丈夫ではないでしょうね…」

みんなでクリス先輩に視線を向けると、ものすごい勢いでこちらに向かってくる足音が聞こえた。

『…あれ、御幸?』

「…ははっはっはっはっ……やっぱアンタはこうでなきゃな、クリス先輩!!」

どうやら憧れのクリス先輩の試合している姿をみて興奮しているらしかった。そうだよね、クリス先輩の怪我がなければ、正捕手の座はクリス先輩にあったかもしれない。しかも聞くところによると、御幸が中学のときはクリス先輩のいたチームに勝ったことがないらしい。それほど尊敬している先輩の姿をみれて、嬉しくないわけがないんだ。
…なんか久しぶりにみるな、御幸の素直〜な笑顔。あんな顔できるんだったらいつもしてればいいのに。

「なまえ、御幸に見惚れすぎ」
『…え!?幸子、ちがうよ!?』
「いや、ずっと見てたじゃん」
『いやいやいやいや…珍しい顔してるなあって思っただけだよ』
「ふーん。わたしからしたらいつもと変わんないけどね」

結局、黒士館戦は8-5で青道の勝利。その後、監督に集められたため、室内練習場に部員全員が集まる。

「今から一軍昇格メンバーを発表する!!」

「1軍昇格メンバーは……1年小湊春市、同じく1年沢村栄純。以上だ…」

1軍に選ばれた者は選ばれなかった者の分だけ強くならなきゃいけない。 選ばれなかった者はその悔しさを抱え、サポートをしていかなればならない。

わたしは、そんな選手たちに何ができるんだろう…。

黒士館戦は途中からしか見てなかったので、幸子にスコアブックを借りて、それを確認してから帰ることにした。気づいたら真っ暗でびっくりした。早く帰らないと…!!

「なまえ?」
『…あ、御幸』
「なにしてんの?」
『黒士館のスコアみてた』
「あ、それ俺にも貸して」
『ん、ちょっとまって』

ゴソゴソかばんを漁る。なかなか出てこない。大事なものなので、奥にしまいすぎたかも。

「小湊と沢村、どう思う?」
『…ああ、1軍?』
「そ」
『監督が決めたことだし、何も言えないよ。ただあの2人には、選ばれなかった3年生が苦労してきた倍は苦労してもらわないと困るね』

あ、あった。

「…あーーそういう見方ね。…さすがなまえちゃん」
『なに?ていうかいらないの?』

さっきからスコアブックを出してるのに、一向に受け取らない御幸に、声をかける。

「なんでクリス先輩じゃないの!!って沢村みたいに駄々こねるかと思った」
『そんな子どもじゃないよ』

と、御幸がやっと手をだし、スコアブックを受け取ろうとした。そのとき、指先が少し触れた。…とおもったら、わたしの右手に御幸の左手が重なった。

「…御幸?」
『…あ、わり。なんでもない』

と、手が離れていく。6月とはいえ、外は少し肌寒い。ちょっと冷たい御幸の体温。

「つーかこれから帰んの?電車?」
『そうだよー』
「もう9時過ぎてるぞ。大丈夫か?」
『ん、へーきへーき。御幸こそお風呂入ったの?』
「まだ。…入ってないついでに送ってやるよ」
『え、大丈夫だよ。明日も早いし』
「それはお互い様。さーいくぞ」

ぐいっと腕をひかれ、一緒に歩き出す。

夏はこれから。
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