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12月25日、世間はクリスマスムード一色に染まる日。冬合宿中の野球部ではあるが、今日だけは特別に、クリスマス会のようなものが夜に行われる。

かといって練習の厳しさは変わらず、日が落ちるまでそれは続けられた。

わたしたちマネにとってはとても忙しい日で、朝からいつもの業務に加えてケーキなどの準備に追われる。途中貴子さんが助っ人に来てくれたおかげで、時間内に用意することができた。

「おおお〜!これ、マネさんが用意してくださったんですか!」

練習後、お風呂を済ませた部員たちが食堂に続々と集まってきた。栄純始め他の部員たちも大きなケーキを嬉しそうな目で見てくれているので、作ったこちら側も嬉しくなる。

クリスマス会は大いに盛り上がった。ジュースで乾杯をした後、部員たちはすごい勢いで料理を完食し、ケーキやカラオケを楽しんでいた。途中ケーキを「まあまあおいしい」と言った御幸に幸子が絡む事件が勃発してはいたけど、基本的に平和に過ぎていった。

「あ、ジュース足りない」
『わたし持ってきますね』

足りなくなった飲み物を取りに一旦騒がしい食堂を出た。食堂の外に差し入れや何やらでいただいたたくさんの飲み物が置いてある。足りなそうだからダンボールごと持って行こうとしゃがもうとしたその時。

「…オイ」
『ひっ…!』
「…そんなビビんなよ」

いきなり後ろから声をかけられて、必要以上にびっくりしてしまった。

『く、倉持か。ビックリした…』
「ワリィ」
『いや大丈夫…どうしたの?』

そういえば、倉持のことも少し避けてしまっていたからこうして話すのは久しぶりかもしれない。

「それ貸せ」
『え、いいよ大丈夫』

持とうとしたダンボールを倉持に取られそうになって、咄嗟に倉持の腕を掴んでそれを制止した。

『っわ、』

その状態のまま倉持がいきなり自身の方へ腕を動かすから、抵抗できずにそのまま倉持の腕の中に収まった。

「迷惑かよ」
『…何が?』
「…こういうの」

『迷惑じゃ、ない』

迷惑か、そう聞かれて反射的に出た言葉。迷惑なんて、思ったことないのに。

「お前最近俺のこと避けてただろうが」
『…それは、その…倉持と話すの、ちょっと緊張する、というか…』

ぎゅう、と苦しいくらいに抱きしめられて、逃げ場がないことには気付いていた。だから、今自分が言える範囲で素直に答えた。

「…んだよ、それ」

言葉とは裏腹に、とても穏やかな声。倉持のこういう声、落ち着くなあ、なんて。

「…今もかよ」
『…うん。てか倉持もじゃない?』
「るせ」

密着した体から伝わってくるのはお互いの少し早い心臓の音。

「…甘ェ匂い」
『あー…ケーキ作ってたからね』

そういう倉持からは、シャンプーの香りがする。

『倉持』
「あ?」
『ごめんね』

意識しちゃうのはもうどうにもできない。だけど、避けるのはやめにしよう。わたしを手伝おうと、わざわざ抜けてきてくれるくらい、優しい人を。

「…これで許すわ」

秋大決勝ぶりにおでこに感じた感触は、相変わらず柔らかかった。
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