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7月22日。明川学園戦前日だ。明日の試合に備えて練習は早めに切り上げられた。明日の試合は10時開始。早起きだなあ…。
「明日も30℃を超えるようだから自主練もほどほどに睡眠もしっかり取っておくように。解散!!」
監督の一声で今日の部活は終了。さて、明日の試合の準備だ。
「もう終わり?明日試合なのに!!」
「いや…試合だからだよ…」
『そうだよ〜自主練もやりすぎないでね』
「うおっなまえ先輩!?」
「なまえさん…」
『春市くん栄純のことちゃんと見張っといてよ〜』
「なんですかその言い方!!」
「春市!」
と小湊先輩が春市くんに声をかける。…この二人が会話してるのもめずらしいな。どうやら兄弟でティーバッティングするようだ。
「あっ」
『?』
栄純が突然声を上げた。何事かと栄純の視線の先には。
「待て〜〜い御幸一也ぁ〜!!!!
進化した俺のストレート!!受けてみたくはないかあぁぁ!!」
「うるせぇな!!フルネームで呼ぶなよ!!昨日さんざん受けてやったろ!!お前のエセストレート!」
「エセとはなんだぁ!!」
『栄純…落ち着きな』
「だってなまえ先輩!!」
「なまえ、沢村よろしく」
『押し付けないで!押し付けるのは倉持でいいでしょ!』
「オイテメェ何巻き込んでんだ」
『あっ倉持なんていいところに〜』
「なまえテメェ…わざとらしすぎんだよ!!」
と言いながらわたしの首を絞めてきた倉持。
『ちょっ…く、くるしい!!!死ぬ!!栄純ヘルプ!!』
「なっ倉持先輩なんてことを!!!」
「ヒャーッハ!めんどくせぇこと押し付けようとしたコイツがわりぃんだよ!」
「なんですと!?それつまり俺がめんどくさいってことになるじゃないですか!!」
「今更だろーが!」
わたしの首を絞めながら栄純と言い合いをはじめた倉持。え、これ解放してくんないの?え?死ぬのわたし?
ドスッ!!
「っ!てぇ…」
『っぷはっ…!!』
「ねぇ、さっきから暑苦しいんだけど」
「りょ、亮さん…」
『こ、小湊先輩…』
やばい、これはやばい。さっきまであんなに余裕そうにしていた倉持でさえ冷や汗をかいている。
「ただでさえ暑いのに余計暑くしないでくれない?」
「『はい、すみません』」
「分ったならいいけど。春市、行くよ」
「あ、う、うん…」
「…助かった…」
『倉持のせいだからね』
「あ?なまえだろ」
『ちーがーいまーす!』
『ってあれ?栄純いなくなってる』
「御幸のとこだろ」
『ストレートよっぽど嬉しかったんだねぇ』
「だろーな」
目に見えて成長できているのが嬉しいんだろう。丹羽さんが怪我をしてしまった今、栄純も青道の立派な戦力になってきている。2年生、3年生の栄純に対する接し方も、入学当初とはずいぶん違う。
1年生から3年生まで、ひとつのチームになりつつあるんだ。
『倉持は明日打てそう?明川のピッチャーなかなかすごかったけど』
「ヒャハッ、打つに決まってんだろ!」
『期待してるよ〜足おばけ!』
「テメ、足おばけってなんだよ」
『褒め言葉だよ!』
さて、そろそろ明日の準備に行かなければ。
『じゃ、準備してくるからわたし』
「おう…あ、なまえ」
『なに?』
「…なんでもねぇ」
『?そう?』
倉持が何を言いかけたのか、それを知るのは、だいぶ先。
今はまだ、このままで。