「砂夜子ちゃん、寝ちゃダメ」


遊菜は宇宙人、砂夜子のおでこを指で弾く。当の砂夜子はゆっくりと瞼を持ち上げ遊菜を見やった。


「ああ、遊菜。ダメだなこれは」


砂夜子は神妙な面持ちで呟く。遊菜はまぁねと言い、煎餅をかじった。

今、砂夜子と遊菜が入っているのはこたつである。あの、冬の魔物と言われるこたつ。その能力は既に折り紙付きだと言えよう。こたつには誰もが虜になってしまうのだ。先ほど初めてこたつを見た砂夜子も、入った瞬間に虜になってしまった。

遊菜は年末年始にはお馴染みの特番バラエティーを見ながら煎餅をかじる。砂夜子もこたつから上半身を出し、煎餅を一枚手にした。


「おーい、出来たぞ」


そこにやって来たのは十代だ。お盆を片手にキッチンから歩いてくる。
十代はこたつの側で腰を下ろし、机の上にお盆を置いた。


「わーい、十代のうっどーん」


遊菜はうどんの入ったどんぶりを受けとり、目の前に置く。砂夜子も同じようにどんぶりを置いた。十代はお盆を脇にどかしてからこたつに足を入れる。


「あー、あったか」

「十代のうどん大スキー」

「そんなに美味しいのか?」


問う砂夜子に、遊菜は「うん!」と頷いて見せ、手を合わせる。「いただきます!」そう言った遊菜はうどんをすすり始めた。それをチラリと見た十代はどこか嬉しそうに微笑むと、うどんを食べ始める。
砂夜子は遊菜の食べっぷりに唾を飲み込み、手を合わせた。


「いただきます…」


器用に箸を使いうどんを口に運ぶ。適度な固さと暖かさ。出汁の味がじんわりと染み渡る。


「美味しい…」

「口に合ったみたいでよかった」

「うどんを作らせたら十代の右に出る人はいないからね!」

「遊菜、人に箸を向けない」

「おっと」


テンションが上がって十代を箸で指した遊菜は、彼の忠告に素直に従う。その間も砂夜子は十代が作ったうどんの虜になっていた。


「やっぱり年末年始はこうでないと!」

「?」

「こたつに入りながら十代の作ったうどんを食べるの!」

「毎年…そうなのか?」


箸を止めて聞いてきた砂夜子に、遊菜は「そうだよ!」と笑う。遊菜はうどんを食べるのを再開させた。


「そうか……恒例なんだな…」

「ま、恒例っちゃあ、恒例だね」


砂夜子はどんぶりを見つめ、微笑む。遊菜はその様子を見て首を傾げた。十代も顔を上げ、砂夜子を見つめる。


「いや……この家の一員になれた気がして嬉しかったんだ。そう思っては、ダメだったか?」


どこかぎこちなく笑う砂夜子に、遊菜は吹き出した。十代は思わず「汚い!」と指摘してしまう。「ごめんごめん」遊菜は然して謝罪の念を込めてない謝罪をし、目尻に浮かんだ涙を拭いた。


「遊菜?」

「砂夜子ちゃんもごめんね?余りにも砂夜子ちゃんが可愛いことを言うからさ」

「可愛い?」

「砂夜子ちゃんってば、今さら「この家の一員」って…」


遊菜はまたくつくつと笑う。砂夜子はよく分からず首を傾げた。十代は浅く溜め息を吐くと、箸を置いて砂夜子を見据える。


「遊菜が言いたいのは、砂夜子はもうとっくに家族の一員だってことだよ」

「家族……」


砂夜子はその言葉を噛み締めるように言う。それから自分の目頭が熱くなるのを感じて顔を伏せた。


「砂夜子ちゃん?」


笑いから復活した遊菜が砂夜子の名前を呼ぶと、彼女の肩が揺れる。そして、砂夜子はこたつの中に身を潜めた。余りにも急な出来事に遊菜と十代は顔を見合わせる。

遊菜が砂夜子を探そうとこたつの布団を捲った瞬間、中から砂夜子が飛び出して来た。「うわわ!」その勢いに遊菜の身体は後ろに傾く。砂夜子は遊菜の背中に腕を回し、ぼそりと溢した。


「遊菜………好きだ…」


遊菜は面食らったかのように目を真ん丸にする。十代はどこか楽しそうに肩を竦め、うどんを食べることに戻っていった。


「私も…砂夜子ちゃんが好きだよ…」


今の状況を理解した遊菜は、自分のお腹辺りに顔を埋める砂夜子の頭を撫でて言う。がばりと顔を上げた砂夜子の笑顔に、遊菜もつられて笑顔になった。

back
(15/25)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -