初夏だ。
日差しは強くなり、服や前髪を揺らす風が心地良い季節。
学校は休みで、特にすることもないからと散歩に出たとき、見慣れた翡翠色の髪がひょこひょこ動くのが見えた。
「やっほ、ヨハン」
「遊菜……」
「お邪魔しまーす!」
私の家のすぐ近く、斜め向かいのマンションに住むヨハンの家に勝手に上がり込んでみれば、ヨハンはベランダでシーツを干していた。
真っ白いシーツが青い空によく映える。ふかふかだなあ。
「お邪魔しますっていうか、お邪魔してます、だろ」
ヨハンは呆れ気味にそう言ってシーツを一枚手に取った。洗いたてのシーツから香る石鹸の匂いが風に乗って私まで届いてくる。ヨハンからも同じ匂いがして、思わず鼻をすんと鳴らしてしまう。
「別にいいんだけどさ!」
風に短い髪を躍らせてヨハンは笑う。幼馴染とはまた違う種類の笑顔を目に焼き付けた。
「どうしたんだよ? 今日は」
「うん。何か暇だったから、散歩。ヨハンはお洗濯?」
「そう! 今日は天気良いし風もあるから、絶好の洗濯日和だぜ! ここんとこ雨が多かったから、シーツとか溜まっちゃて」
うーん! とヨハンが伸びをする。薄手のパーカーの裾から白い肌がちらっと覗いた。初夏の空とヨハンはよく似合っていて、眩しい。
幼馴染が太陽なら、彼はきっと青空だ。
「私も一枚干してみていい?」
「おう! いいけど破くなよー」
「破かねーよ!」
ヨハンからシーツを受け取って、思いっきり広げてみる。
ぱんっ! と音を立てたシーツをふわりと翻らせてみれば、石鹸のいい匂いが私たちを包んだ。きらきら光る日差しを受けて輝くシーツを物干し竿に引っ掛ける。
「できた! みてみてこの完璧な仕上がり」
「おお! 綺麗にできたぜ。ていうか誰だってできるよそのくらい」
ふわふわのシーツを沢山抱えたヨハンが「ほら!」と言いながらシーツを私に押し付けてきた。ふんわりとしたシーツが頬や腕に触って気持ち良い。
石鹸の香りに混じってお日様の匂いがした。
「おお……ふかふか」
「だろー?」
からからと笑いながらヨハンがシーツを一枚抱きしめた。
もふっとシーツに頬を擦り付ける姿はなんだか犬みたいで可愛い。
少しだけどきっとして、シーツを取り落としてしまう。
床に落ちたシーツを拾いながら、そっと息を吐いた。
暑さのせいかよくはわからないけど、微かに顔が熱い。あとで麦茶でももらおう。
ついでにアイス買ってきてもらおう。
空を飛行機が通り過ぎる。飛行機雲を見上げる私たちの髪を風が揺らした。