港を離れて校舎に入る。授業が終わり制服に着替えた生徒たちと廊下ですれ違った。
そして保健室の扉の前に立ち扉を開ける。

「冬月」

『あ、エドくん』

「どうしたんだ、何処か怪我でもしたのか」
扉を開けると冬月がジャージのままベッドに腰掛けていた。すぐ側に鮎川教諭が居る。

『うん、ちょっと頭にボールぶつけちゃってね。転んじゃった。そしたら足首がボキって!』
言われて見てみると、確かに彼女の左の足首には湿布が貼られていた。
隣で鮎川教諭が包帯とテーピングの準備をしている。

「他の子が投げたボールが頭に直撃したみたいなの。その拍子にバランスを崩して足首を捻ったようね。」

『びっくりしたよ!頭に何かがぶつかって星が散ったかと思ったら足首がグキって!痛かったー』

「そうか…。」
力説する冬月の足首に鮎川教諭がテープをきつく巻く。

『ちょ、いだだだだ』

「大丈夫、軽い捻挫よ。ちょこっと腫れてるけど、しばらく安静にしていれば治るわ。」
テープが足首を動かしたとき、痛んだのか冬月が声をあげた。その時、保健室の扉が開き、生徒が入ってきた。


ガララ…


「失礼します」

「あ、明日香さん」
「香鈴ちゃんの着替えを持ってきました。」

『ありがとう明日香ちゃん』

入ってきたのは天上院だ。ジャージ姿の彼女の腕には二人分の制服が抱えられている。自分の着替えを後回しにして冬月に制服を届ける辺りに彼女の性格が伺える。

「大丈夫?災難だったわね…。」

『大丈夫!明日には忘れてるよ!』

「ふふ、何それ」

…そういえば、冬月が僕以外の誰かと喋っているところを初めて見た。
こいつが友達と居るところなんて見たこと無いし…。

『ん、明日香ちゃんカーテン先に使っていいよ』

「あら、香鈴ちゃんこそ先に…」

『いいよ、制服届けて貰ったし。それにもうすぐ授業始まるから。先生に私とエドくん授業お休みするって伝えておいてほしいな』

「わかったわ」

『ありがとう!』

「どういたしまして!」

『よし、じゃあエドくん一度廊下に出て!女の子が着替えするんだから』

「…はいはい」

冬月の言う通り、廊下に出る。

…頭にボールをぶつけた挙げ句足まで怪我するとは…なんというか…

「鈍くさ…」

ーーーーーーーーーーーーーー
少しして天上院が保健室から出て来る。
「香鈴ちゃん、それじゃあね」

そういって室内に向かって手を振り、僕にも小さく声を掛け教室に向かっていった。

頃合いを見計らって保健室に戻る。
しかしカーテンは閉じられたままだ。冬月の姿も見えない。
まだ着替えてるのか…。

「今包帯巻き終わったの。ちょっと時間掛かっちゃった。それと少し用事でここを空けるわね。香鈴ちゃんが着替え終わったらここを出る前に窓の戸締りだけお願いしていいかしら」

「わかりました」

「ありがとう、よろしくね」

ガララ…バタン…。

鮎川教諭が出ていき、二人きりになる。
手持ちぶさたで壁の掲示物を見て回る。
・・・そうだ、先に窓の鍵を締めておこう。
室内に僕の足音と鍵を弄る金属音と冬月がごそごそと着替えをする音が聴こえる。
沈黙に耐えられず、口を開いた。

「…まったく、お前は本当にどんくさいな」

『な、どんくさいとは失礼な!ほんと痛かったんだぞー』

「相手は同じ女子だろ、女子の投げたボールくらい避けろよ」

『いきなり後ろからバコーンと来たの!避けらんないよっ』
「何でバスケで後ろからボールが飛んでくるんだ…。」

『隣のコートの男子のバスケ見てよそ見してたら、バコンと…。』

「…間抜け…。」

『…返す言葉もありません』

「…まあ、大事に至らなくて良かった」
『!!…エドくんが割りと優しいの感じの言葉を掛けてくれてる…!』

「驚くことか」

『や、だって、エドくんのことだから「脳細胞が死滅してこれでまた一歩バカとしての星が1つ増えた」とか言うのかと…。』

「…僕もそこまで鬼じゃない」

『…へへ、心配してくれてありがと。嬉しい』

「…ふん。」

『……』

「……」

『……』

「……ところで、まだ着替え終わらないのか。そして天上院の時と違って今度は追い出さないんだな」

『……あ!そういえば!』

「…はぁ…。」
僕はそもそも男として見られていない、ということか。
…いや別に異性として意識してほしいとかじゃないぞ

ーーーーーーーーーーーーーー

程なくして、カーテンが音を立てて開かれた。
いつもの制服姿の冬月が怪我した左足を浮かせて立っている。

『お、お待たせ!』
「…おそい」

『へへ、ごめん』

ヒョコヒョコと片足で跳ねるように冬月が歩き出す。

見ていて非常に危なっかしい。

……仕方ない

「……ほら」
冬月の前にしゃがみこみ、背中を差し出す。

『……跳び箱?』

「違うだろ!……背負ってやる。だから、乗れ」

『あ、おんぶ!なる〜…って、私かなり重いよ?
実はこう見えてコニシキくらい重いよ』

「え、うそ、本当に?」

『うそ。』

「…………」

『んと、それじゃあ、お言葉に甘えて…よいしょっと…。』

冬月がそろりと僕の首に腕を回した。
少し遠慮がちだが、しっかり掴まったのを確認して、ゆっくりと立ち上がり保健室を出て歩き出した。


『…おおっ、うわーおんぶとか久しぶり。最後にして貰ったのいつだろう。
…ていうか久しぶりのおんぶが後輩の男の子ってどうなのかなこれ』

「知るか」

『おんぶも良いけど、お姫様抱っこも憧れる!エドくんやって!』

「階段に投げ捨てるぞ」

『ごめんなさい』

「落とされたく無かったら大人しくしてろ」

『…うんっ』

『…エドくん』

「なんだ?」

『ギュッてしていい?』

「断る!!」

『…ちぇッ』


別に当たって妙に意識してしまうとかじゃないぞ!どこに何がってだから背中に胸が当たって、ってああもう何を言ってるんだ僕は!!


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