▼きょうの夕飯はあなたの好きなもの

※お付き合い済未来設定
※1stAL ドラマトラックネタバレ有



銃兎さんは1年の中で2回、感情が不安定になる日がある。
基本的にはいつも通りを装っているけれど、持ち帰った仕事の合間や、テレビのCM中。 煙草をふかしている時や、珈琲を飲んでいる時、ふとした瞬間にストン、と表情が抜け落ちる。
声をかけるか、視線を感じれば表情は戻るが、どこか繕ったような、表面的なのが拭えないものだ。


理由はわかっている。 けれどそれは、いくら恋人の俺であっても軽率に触れていいものではないことも、わかっている。
俺に出来るのは、何も聞かずに、ただいつも通り一緒にいること。 それと夕飯に銃兎さんの好きなものを多く作ること。 ただそれだけ、だったのだけれど。


「墓参りに、付き合ってくれないか」


少し困ったように眉を下げ、笑う銃兎さんに面食らう。 理由を知らなかった頃は不調を指摘してもはぐらかされ、知った後も"出掛けてくる"とだけ言って、まるで迷子の様な、不安そうな雰囲気をまとって帰ってきていた。 だから俺は銃兎さんのご両親にも、銃兎さんに警察のいろはを教えてくれたという友人にも、挨拶をしたことがなかったのだ。

ポツリポツリと、その大切な人達の話は聞いていた。 だからこそ今の銃兎さんがいるのも理解しているし、亡くした理由を、信念の訳を知ってしまえば、一緒に行ってもいいか、とは口にできなかった。
そりゃあ1人で背負うことはしてほしくなかったし、何も出来ないことに歯痒さを感じることは幾度と無くあった。 でもそれは俺の我が儘で、銃兎さんの葛藤がわからない訳じゃなかったから。


「…行って、いいの」
「いいから言ってる」


また困ったように笑って、ほら、行くぞと手を差し伸べられた。 なんとなく気まずく、恐る恐るその手に自分の手を重ねる。 重なった手を引っ張られ、立ち上がった俺に上着やらいつも使っている鞄を持たせて、珍しく、繋いだ手をそのままに家を出た。


───────


ヨコハマだというのに余計な音がしない。 するのは風で揺れる葉の擦れる音と、時々砂利を踏む音だけ。 それといつも見る煙草とはまた違った、線香の煙と匂い。 ひと通りの掃除を終え、銃兎さんと並んで手を合わせる。

入間家之墓。
銃兎さんのご両親が眠る場所。
友人のお墓も同じ寺内にあり、そちらは先にお参りをした。

花を供え、線香を手向ける。
今と先程と。 今まで頑なに連れてこなかった俺を連れて、銃兎さんは何を思って、何を話したのだろう。
銃兎さんに愛情を注ぎ、育ててくれた彼らにも、警察での、組織犯罪対策部での礎となった彼にも、俺は会うことが出来なかった。 けれど願わくは、銃兎さんの幸せを祈っていてほしい。 そしてその幸せに、俺が共に歩むことも許してほしい。


「…名前」
「うん?」
「一緒に来てくれて、ありがとう」


静かに落とされた名前に反応を返し、視線を向ける。 銃兎さんは閉じていた瞳をゆっくり開き、また静かに言葉を落とす。


「いいや。俺の方こそ、連れてきてくれてありがと」


ゆるりと頬が上がる。 俺に釣られるように、銃兎さんの顔も柔らかいものにかわる。


「帰るか」


スッと立ち上がった銃兎さんが、家を出る時と同じようにまた手を差し出す。 今度は困ったように笑うのではなく、少しスッキリしたようなその表情で。それに俺も嬉しくなり手を重ねた。

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