32…優しい涙と悪魔の目

あれから私は2日間眠り続けたそうだ。
ピカは私と同じく回復が早くもう動き回っている。
勝呂君の喉も大した事はなく皆は元気に塾に通っていると雪が教えてくれた。

『疲れているのに…来てくれてありがとうございます。』
「どういたしまして。僕はもう帰るけど…ちゃんと休まなきゃ駄目だからね。」
『はい。』

彼はこの後すぐに任務で学園を離れるそうだ。
雪が帰ってからは【絶】で回復に専念した。
ベッドに横になりながら外を見ると日はすっかり落ち街明かりが綺麗だ。

(…………首の皮一枚繋がっただけマシですかね。)

燐は様々な条件付きで極刑は免れた。
その条件の一つに【半年後の祓魔師認定試験に合格する事】というのがあるそうだ。
他の条件はまだ分からないがかなりの難易度だ。
燐はいつもの調子だと聞いているが…皆との関係はギクシャクとしているらしい。

(……当然ですよね。本来なら私も…)
「こ、こんばんは…」
『!……しえみ?』

遠慮がちにドアをノックし入ってきたのはしえみだ。
ぎこちない笑みを浮かべながら入ってきた彼女はお見舞いの品として持ってきた花を飾ってくれた。
簡単に今の容体を聞いたり塾での事を話してくれたりとしているが…

『しえみ……やはり怒っていますか?』
「え!?ち、違うよ!怒ってない!」
『では…悲しいのですか?』
「!」

彼女はリンゴの皮を剥いていた手を止め俯きながら少しずつ話してくれた。

「私……3人のこと何も知らなかった。近くにいるようで何も…あんな大変な事抱えてたのに……私が……弱いから…頼りないから話してくれなかったんだって……っ!」
『それは違いますよ。』
「違わない!…みんなに近づけてたと思ってた自分が…情けないよ。」

流れる涙は止まることなく彼女の頬を濡らしていく。
私は安心して欲しくて信じて欲しくて優しく抱きしめた。

「…ソラ…ちゃん?」
『話したくても話せなかったんですよ。サタンの息子という存在はそれだけで敵を作り命を狙われます。酷い場合は周りの人間も巻き込まれてしまう。』
「…………。」
『私は【念】を使いメフィさんから聞きましたが燐本人からはまだ話してもらえていません。』
「え?…そうなの?」
『はい。』

意外だったようで顔を上げそう聞いた彼女に私は苦笑交じりに返事を返した。

『彼らは大事な家族を殺されて間もない…それでいてサタンの恐ろしさを知っています。だからこそ話す事は…かなりの勇気が必要になるんですよ。』
「じゃあ……あの時…燐は…」
『ええ。怖かったと思いますよ。……でも…あなた達を信じ一緒に前へ進もうと頑張ったんです。』

勝呂君が首を絞められている時に燐は皆の前で自ら正体を明かしたそうだ。
ようやくできた居場所を失うかもしれない恐怖よりも皆への想いが勝ったのだろう。
私の胸に顔を埋めしえみは再び涙を流している。

「そうなんだ……私達を信じて…………なのに……私…まだ……」
『ゆっくりで良いんです。今みたいに真剣に考えて悩んでくれるだけでもありがたいんですから。……しえみ、黙っていてごめんなさい。…避けることなく向き合ってくれてありがとう。』
「………うん。」

本当にありがたい。
こうして悩んで苦しんで涙を流してくれる人と生涯で何人出会えるだろうか。
燐や雪にもこの事を早く知って欲しい。













その翌日に私はメフィさんから京都遠征について説明を受けた。

『【不浄王の左目】…?』

不浄王とは江戸後期に流行した熱病や疫病を蔓延させたとされる上級悪魔。
当時4万人以上の犠牲者を出した元凶と言われている。
その悪魔を倒した【不角】という僧侶が討伐した事を証明するために抜き取ったというのが【不浄王の左目】と【右目】なんだとか…

「目だけでも強烈な瘴気を発し大変危険な代物です。」
『なんて迷惑な…一緒に潰してくれたら良かったのに…』

先日、奪われた左目は雪を含めた数人の祓魔師が犯人を追跡中だ。
京都にある右目も未遂に終わったばかりだが、再び襲われる可能性が高いため警護や看護の応援に向かうらしい。

「もちろん。貴女にも参加してもらいますよ!」
『出発はいつですか?』
「明日の早朝ですね。」
『!?』

体力と火傷などの傷は【絶】で回復が早いとはいえ明日…
今日一日は回復に専念しなければ迷惑をかけてしまう。
立ち上がり帰ろうとするメフィさんは何やら思い出したのか指を鳴らし振り向いた。

「あ!ちなみに貴女の【念】や【錬金術】ですが、上の方々は大変興味を持ったようですよ。」
『…………。』
「あからさまに嫌な顔しますね。…まあ、アレは貴女にしか出来ない術だと説明してますから他の者に伝授しろなどと言っては来ないでしょう。」
『あざッス!』

この後、思い出したが荷物の準備に一度帰らなければならない。
無断で抜け出すわけにはいかない…雪に怒られる。

(…先生の許可おりるかな?)







〜続く〜


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