▼ 天然娘と巨人狂
エルヴィンに提出し この内容だと受け取れないと、もう三度も突き返された報告書と向き合う。巨人のことばかり書いて何が悪い。私たちが調査兵団として調査するのは巨人のことじゃないか…!そうは思ってもエルヴィンの作戦には異論はないし、ヤツに従う他ない。はぁ、なんなんだよ、もう…。
「お疲れ様です…」
「ん?ソフィアじゃないか!」
ノックのあと控えめに顔を覗かせたのはさっきまでリヴァイに訓練をつけてもらっていたはずのソフィア。私の隊の部下だからここに来るのはそう珍しくはないんだけれど……あれ、もう夕日が傾いている。報告書を書き直して半日もたってしまったというのか…!そんな!
「ハンジさんが報告書の件でお困りなんじゃないかとリヴァイ兵長に伺ったので…」
「ああ!ソフィア!きみは女神だよ!」
おずおずと切り出したソフィアに奇行種なみの速さで近寄ると、ひ…と彼女は小さく声をあげた。
「エルヴィンがなかなか可をくれなくてね、どうしたらいいか君の案を聞きたいんだよ…」
「はぁ」
ソフィアに報告書をどさっと渡して、ハンジは部屋をさっさと出ていこうとしている。おそらく日が完全に沈むまでに、捕獲した巨人のところへ様子見に行くのだろう。
よろしくー!と元気よく出ていった先輩をぽかんと見送り、パタンと閉められたドアを空しく眺めながら、何がどうしてこうなったのか、ソフィアは報告書に目を通しはじめた。
―――――
「ただいまー!」
「…………」
あれ?とハンジは颯爽と帰還した我が執務室で首をかしげる。手伝ってくれているはずのソフィアがハンジの机の上で眠っているからだった。
「ソフィアー…?」
「……ん?ん、あれ、はんじさん、」
名前を呼ばれて気がついたのか、ゆっくりと頭を起こす。寝ぼけ眼のまま、ハンジを見遣るソフィアの手元には、彼女が書き上げた完璧な(余裕で可が貰えそうな)報告書。おかえりなさい…とふにゃりと笑ったソフィアにハンジは後光が見えた気がした。
「ああ、もう、ソフィア…!大好き!」
思わずハンジはソフィアを抱き締めて、巨人実験のあとの砂ぼこりまみれの頬を押し付けた。
「…ぎゃ!ううう…苦しいです分隊長」
ソフィアがハンジの腕のなかで呻いていると、突然部屋をノックする音が聞こえた。
「ハンジ、報告書は……」
執務室に入ってきたのはエルヴィンで、ハンジの提出するべき報告書を受け取りに来たのだった。
「ふっふっふ。今回は完璧さ、エルヴィン」
「…またソフィアに書かせたのか」
「…あの、すみません……」
「いや、君が謝る必要はないが……」
得意気にエルヴィンに報告書を差し出すハンジは未だにソフィアを抱き寄せたままで、呆れたようにエルヴィンはため息をついた。
「…ところで、ソフィアをいつまでそうしているつもりなんだ、ハンジ」
「えー、いいじゃないか、抱き心地は抜群なんだし!」
「ハ…ハンジさん、」
「……ほう、それは興味深い」
ハンジがふざけてソフィアの頭に頬擦りしながら抱き寄せるさなか、エルヴィンはそう言うとハンジの腕を引っ剥がすとソフィアの肩に手を置いた。
「え、あの…団長……?」
「試しても?」
何でもないことみたいにエルヴィンはしれっと言って(しかも完璧な微笑みつきで!)、肩に置いた手に向かって身体を引き寄せてゆく。思わずソフィアは彼の厚い胸を少しだけ押し返すような素振りをする。
「…、あの…心臓が……」
「ん?」
「団長だと心臓がもちません…ので、」
「…………」
「…やめて、ください」
「変人同士お似合いでしょう」episode03 天然娘と巨人狂
ソフィアが顔を真っ赤にしたまま去ったあと、ハンジは面白げに言う、
「ソフィアったら私の部屋で眠りこけててさ」
「…………」
「寝顔が可愛すぎて襲っちゃおうかと思ったよねー」
「おい、」
「やだな、冗談だよ…」
鋭く睨みを効かせてハンジを見たエルヴィンは、報告書を受け取って、ハンジの執務室を出ていった。
「……冗談じゃなかったら、どうするのさエルヴィン」
20140707
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