月が綺麗ですね。 | ナノ

ありがとう




「えっと、弥勒の戯れ言はおいといて・・・」

 蓮子は改めて殺生丸に正面から向き直る。

「ダメ・・・かなぁ?」

 涙目で恐る恐る伺うように、上目遣いでお願いする蓮子。





 ‡ 肆拾肆 ‡





 弥勒の『戯れ言』があったからか、ほんのりと頬を染めた蓮子に見上げられて、殺生丸は思わずその表情を凝視する。

「あの・・・?」

 黙ったまま見つめられて、蓮子が居心地悪そうに声をかけると、殺生丸がクルリ、と後ろを向いた。

「二言はないぞ・・・」

 一瞬、そのまま置いていかれるのかと思ったが、一言そういった殺生丸が天生牙を抜く後ろ姿を見て、蓮子は何度も頷いた。

「う、うん! あたしにできる限り、なんでもするよ! ありがとう殺生丸!」





***





 殺生丸が何もないところを切ると、その場にいた全員が生き返った。体がバラバラの状態の人間も普通に起きて喋るので、ちょっと怖い。

 幸いにも、村人たちは刀で切られたか槍で突かれたかで体の損傷自体は少なかったので、すぐに体は癒えた。

 しかし、野盗たちは全員首と胴が離れていた状態だったので、蓮子は体の部分を縄で縛りあげてからニヤニヤと喋る生首を掴んだ。

「さーて、あたしによる、あたしのための、お仕置きタイムだぁ〜」

「ひぃいいいい!!」

「よっくも! あたしの柔肌にキズをつけてくれたな。こんにゃろっこんにゃろっ。」

 ぼかすか。と、蓮子が野盗を蹴りつける。特に刺した奴を重点的に。

(蓮ちゃん意外と元気そうね・・・)

 刀で刺されたときはどうなるかと気を揉んだものだが、元気いっぱい動き回る蓮子に、かごめはホッとする。

 わざと自分たちのバラバラになった胴が見えるように野盗たちの首を置く。

「正直いって、あんたたちを助ける必要はないわよね〜? このままくっつけずにほっとこうかしら〜?」

「た、たのむ・・・」

「おれたちはお頭の命令をきいてただけだ・・・」

「はあ〜?」

 野盗たちの命乞いをきいて、蓮子は眉を吊り上げる。

「ひとのせいにしてんじゃねえ!」

「ひぃ!」

 蓮子の恫喝に、野盗が悲鳴のような声をあげる。

「てめえらはちゃんと自分で選べただろうが・・・」

 蓮子は村の惨状を思い出す。たとえ、自分たちが生き残るためとはいえ、なんの罪もない人たちを殺すことを、こいつらは自ら選んだのだ。

「今までおまえらに殺された人たちは選べたのか?」

「・・・・・・」

「選ばせてやったのか?」

 きっと、中には同じように命乞いをしたひともいるだろう。それでもこいつらは殺してきたのだ。
 ばつが悪そうに、野盗たちが視線を逸らす。

 それを見て、蓮子は鋭い目で睨む。

「おまえらみたいなクズどもは『良い人間になれ』って言ったところで舌先三寸で終わる。だから良い人間にならなくていい。その代わり、『良い人間になったフリ』をしろ。」

「ふ、フリ?」

「それでここの村の人たちに償いをしろ。村のひとたちが「いいよ。」っていうまでずっと尽くせ。」

 村は焼き払われて、家は壊れ、家畜は全滅、畑も荒れ放題だ。こいつらの顔もみたくないかもしれないが、人手は要るはずだ。

「もし村からでても、ずっと一生『フリ』をし続けろ。それができなければ、くっつけた繋ぎ目から腐ってまた胴と首が離れるぞ。」

「わ、わかった。いうことをきくからっ・・・」

 首が離れたままいつまで意識を保てるかわからない。死への恐怖から野盗たちは涙を流しながら誓いをたてた。
 勿論、蓮子の言葉に背いたからといっても傷が開くことはない。口から出任せだ。それが、彼らの今後にどのような影響を与えるか測ることはできない。できないが、彼らの未来が少しでも明るいものであるように、と願った。





***





「気はすんだか?」

「いや、まだっ。あたしを刺したヤツをもっぺん蹴ってから・・・」

「もう十分だ。」

 すっかり頭に血が昇っているらしい蓮子を今まで意外にも辛抱強く待っていた殺生丸が肩に担ぐ。

「はにゃ?」

 ぐるん。と体勢が変わった瞬間、目の前も同じように、ぐるん、と回り、蓮子は気の抜けた声を出した。

「なんか、くらくらする〜」

「バカもの。血を流しすぎだ。」

 目の前を星がチカチカして、蓮子は殺生丸の肩にぐったりとのびる。

「お、おい殺生丸!」

 サク・・・と歩みを進めようとしていた殺生丸を目が覚めたらしい犬夜叉が引き留めた。

「・・・・・・なんだ。」

 やっと帰れる。と思った矢先に引き留められて、殺生丸は不機嫌に返す。
 それに一瞬たじろいだが、犬夜叉はぐっと息を飲んで、言葉を続ける。

「その・・・あ、ありがとな・・・」

「・・・・・・・・・」

「な、なんだよっ!」

 弟からの初めての礼の言葉に、殺生丸は眉をぎゅっと寄せて、とても嫌そうな顔をした。

 お礼を言っただけの犬夜叉は心外だと怒る。

「きさまを止めたのは、きさまの為ではない。」

「わかってる。蓮子の為だろ?」

「断じて違う。」

 揃いも揃って。生暖かい視線をするのは辞めろ、と言いたい。

「それと、人間の奴らを助けてくれたことも・・・」

 少し俯いて、ばつの悪い顔をする犬夜叉を殺生丸は横目で見る。

 気が付いたとき、己の爪に記憶にない野盗の血がこびりついていた。それがどういうことか悟って、犬夜叉は気落ちしていた。

 別に、野盗が生き返ったことで、自分が人を殺した事実が消えることはないが、それでも、救われた。

「礼なら蓮子に言え。」

 そういう殺生丸の肩でのびている蓮子は目を回していた。

「ああ。蓮子のこと、頼むな。」

 元気になったら、改めて礼を言おう。もう、殺生丸が蓮子を治療するために連れていこうとしていることはわかっている。

 犬夜叉は笑顔で、二人を見送った。






一応全員救いました。蛾天丸さま以外!(笑)
人間は殺しちゃダメで、妖怪はいいっていう理屈はよくないと思いますが、めんどくさかったんだもん。(ひでえ)
いや、真面目な話、人間を食料としてしかみれない妖怪はちょっと相容れないかなぁと思います。
原作のこの場面、最後まで村の少年は犬夜叉の味方でいてくれたのですが、少し闇を残してしまったことが気がかりでした。少年だけは救いたかったので満足してます。
「いい人のフリ」は『お茶にごす。』からの引用です。意志の弱い人間は「いい人」にはなりたくてもなれないと思うのです。犬夜叉にでてくる人たちはいい人も多いですが、そうではない人も少なからずいますよね。とくにこの野盗たちはたぶん性根が腐ってるので、命を救うだけでは本当の救いにはならないと思います。でも夢主には、どこぞの聖女さまのように心を救うことはできないので、脅すことにしました。この後野盗がどうなったのかは御想像にお任せします。
犬兄弟をもっと仲良くさせたいのですが、絡ませるのが難しい。原作でも、あまり直接会話らしい会話をしてないんですよね。犬夜叉が気絶してたり、匂いだけ残してすれ違ったりで。
(20/11/21)


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