女の子だもん空が近い。視点が高いので遠くがよく見える。 「あ。かごめちゃんだー!おーい!」 遠目にかごめを見付けて、蓮子は嬉しくなって笑顔で手を振った。 「え、蓮ちゃん?」 「蓮子さま?」 気付いてくれてよかったと思いながら蓮子は手を大きく振る。 「おーい。かごめちゃーん、タッケテー!」 「え゛ええええええ!?」 だってこれ、よく考えたら誘拐だよね?と気付いて、へるぷみー!と叫ぶ。 「だぁーれかぁあー!ひとさらいぃいいいいー!」 いー。いー。いーんんん(ドップラー効果)。 悲しきかな、蓮子の悲鳴が響き渡ったが、誰も、どうすることもできなかった。 殺生丸に連れ去られた蓮子をポカーンと見送って、かごめはポツリと呟いた。 「なんか、蓮ちゃんなら大丈夫な気がする・・・」 「ですな。」 「そうじゃな。」 意識のない犬夜叉を除いて、一同の意見は一致した。 ‡ 拾肆 ‡ ていうか。 「犬夜叉血まみれじゃん!なにが『怪我させた程度』よ!」 倒れている犬夜叉の下が血の海になっていた。殺す気はなかったのでは、とか甘かった。 コイツ殺す気だ。 ドメスティックバイオレンスどころか、冷酷無比だ。サイコパスだ。と蓮子は思い直す。 殺生丸は一瞬チラリと視線を寄越したあと、またツンと前を向いた。 「・・・犬夜叉とて、半分は我が一族の血を受け継いでいるのだから、あの程度では死なん。・・・たっぷりと毒を注いでやったから治りは遅いかもしれんがな。」 「うわー!ヤな奴!ヤな奴!ヤな奴!」 生き地獄か。一思いに殺すより酷い。いや、殺されなくてよかったけど。 「せ、殺生丸さま。というか、何故この小娘まで・・・?」 殺生丸の尻尾にしがみついて何気にいた邪見が恐る恐る核心をついた意見を言う。 「いやほんとなんでよ?」 「・・・・・・」 「無視すんなー!」 殺生丸が、蓮子を拐った理由がわからなくて、邪見と一緒に首を傾げる。 (でもなぁ〜犬夜叉たち心配してるよなぁ・・・) 誰一人として一ミリも心配してないことを蓮子は知らない。 「ねー殺生丸〜。降ろしてよー。いや、ここで降ろされても困るから犬夜叉のとこまで送ってって。犬夜叉の手当てもしたいし・・・」 「・・・・・・」 「無視かー。」 いい加減にしないと泣いちゃうぞー。 「なぁーにを不遜なお願いをしとるんじゃ!おそれ多い!そもそも殺生丸さまを呼び捨てなぞ、『さま』をつけんかい!」 「えー?さまー?」 殺生丸っていいとこのお坊ちゃん? 蓮子は今さらじゃね?と思わなくもなかったが、何事も試してみなければわからないだろう。 殺生丸の腕の中からその頬を撫で、伏し目がちに彼の尖った耳へ甘く囁いた。 「ね〜え、殺生丸さまぁ〜?蓮子、高いところ、怖いの〜。お願ぁ〜い、降ろしてぇ〜?」 両手に拳をゆるく握り、顎に添えて、目をできるだけ大きく見えるように上目遣いで、うるうると目を潤ませながら、しとけなく、しなをつくった。 邪見が器用に殺生丸のモコモコの上でひっくり返ってた。(失礼な。) ちなみに肝心の殺生丸はというと。 「・・・・・・」 すっごい嫌そうな顔された。 一応こちらに顔を向けたが、無言のまま、これでもかと眉を寄せ、汚物を見る目で見られた。 もちろん成功すると思っていたわけではなかったのだが、色仕掛けにはわりと自信があるほうだったので、そこまで嫌悪されたことに一際ショックを受ける。 殺生丸の肩に瞼を押し付け、涙を隠した。 ―――でも、涙がでちゃう。女の子だもん。 らんま直伝色仕掛け!(不発) えーと、一応補足として。削ってしまいましたが、九十九の蛙のときや、雷獣兄弟や、弥勒登場回のときにも色仕掛けを使って成功してるというエピソードがある予定でした。一応成功率は高いつもり。 またいつか、気が向いたらかきたいと思います。 (20/07/21) 前へ* 目次 #次へ ∴栞∴拍手 |