白烏の錬金術師 | ナノ

19

 堂々と違法なことを考えていたので、通報されたらどうしようと少しおびえていたが、どうやらこの街では錬金術師を歓迎しているとのこと。壊れたので直してくれと頼まれ、エドはツルハシを直す。

「「「お――――!!」」」

 周りから大歓声があがる。
 エドは日の丸の扇子を広げてポーズをとっている。

 有頂天だ。

「いやあ嬉しいねぇ!久しぶりの客が錬金術師とは!」

 さきほどの営業的な態度ではなく、好意的な笑顔で食事をもってきてくれるホーリング。しかも、代金を半額にしてくれた。それでもまだ高かったが、なんとか手持ちのお金で払えるので、エドたちは安心して食事の席に着いた。
目の前に並ぶ美味しそうな料理にエドが舌なめずりをして、ナイフとフォークを握ると、ホーリングは今思い出したかのように問いかけた。

「そういや名前まだ聞いてなかったな」
「あ、そうだっけ」

 目の前の料理に気をとられながら、エドが名乗る。

「エドワード・エルリック」

 しかし名前を聞いた瞬間、友好的だったホーリングの笑みが凍結し、フォークを料理に突き刺そうとしたエドの手元からさっと皿を取り上げた。がち、とフォークは空振り、机に刺さる。
 また能面のような笑顔を顔に貼り付けたまま、さらに問いかける。

「錬金術師でエルリックって言ったら―――国家錬金術師の?」

 『国家錬金術師』の言葉に周りにいた人間までも僅かながら反応する。それにエドはただならぬものを感じたが、それでも本当のことなので、曖昧に肯く。

「・・・・・・まあ・・・・・・一応」

 しかたなく手元に残ったカップに手を伸ばせば、それさえもまたさっと取り上げられる。

「なんなんだよいったい!」
「エド、うしろうしろ」

 エドの背後にハイエナのように目を光らせた集団が忍び寄っており、ルナは背後を指差し忠告するが、とき既に遅し。



「出てけ!」



 何とも素早い速さで、三人ともぽいっと宿の外へと放り出されてしまった。一瞬唖然とした三人だが、すぐさま我に返ったエドが「俺たちは客だぞ!!」と喚く。
 だがホーリングはぺぺぺっと苦々しげに唾を吐き捨てただけだった。

「軍の狗にくれてやるメシも寝床もないわい!!」
「あ、ボクは一般人でーす。国家なんたらじゃありませーん」
「おおそうか!よし入れ!」
「裏切り者!」

 あっさりと手のひらを返すアルにエドは吠えるが、隣でも動きがあった。

「ああ、なるほど」
「へ?」

 手のひらにこぶしを叩きながら言うルナに、エドが間抜な声を出す。
 とルナも笑顔で手を振った。

「えーっと、私も一般人でーす。国家うんたらじゃありませーん」

 少しばかり棒読みになってしまったのはご愛嬌だ。
 しかし、ホーリングはルナの言葉にすっかり気を良くした。

「おお、そうかそうか。嬢ちゃんも早く入れ」
「ルナ、おまえまで!?」

 度重なる弟妹たちの裏切りに、エドは目の前が一瞬暗くなるのを感じた。


「この、この・・・・・・・・・」




「裏切り者ぉーーーーー!!!」


 エドの絶叫を背後で聴きながら、アルとルナは宿へ入る。取り敢えずルナは食事を始めた。まわりでは炭鉱の人たちが久しぶりの錬金術師が軍の狗なんてしらけたなどと、ブツブツ文句を言っている。

「(聞こえているのだが)・・・随分と、嫌われているみたいだな」
「そうだね・・・」
「そりゃそうだよ。ここのみんなは軍人なんて大っ嫌いだもん」
「どうしてなんだ?」
「ここを統括してるヨキ中尉ってのが金の亡者でさ、もー最悪」

 飲み物を持ってきてくれたらしいカヤルが神妙な顔でトレイをおきながら呟く。カヤルのその言葉を最初に、みんなが一斉に堰を切ったように文句をぶちまけはじめた。二人は顔を見合わせてから、再びカヤルに話を聴く。
 なんでも、この炭坑の権利者は軍の人間であるヨキ中尉という人物なのだが、彼は金の亡者で、炭坑で働く者たちの給料は雀の涙ほどしかないのだという。

「でも、その人とエドは関係無いだろう?」

 話を全て聴き終えてから独り言のようにルナがボソリと溢せば、それに答えたのはカヤルではなく、ホーリングだった。

「『錬金術師よ大衆の為にあれ』・・・錬金術師のプライドであり常識だ。数々の特権と引き換えとはいえ軍に魂を売るような奴は俺は許せねえ」

 ホーリングは無表情の下に、抑え切れない感情をムリヤリ押し込めたような表情でそう続ける。

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