課外実習1


「凄いなあタカ丸くん…」
さっきから部屋で鏡を見直すこと数回。
「教えてもらった化粧の仕方、忘れないようにしなきゃ」
私なのに私じゃないみたい。


今日のくのたまの授業は課外実習だ。
内容は、まず町へ出て男性に声を掛けられること。それから隙を見て男性の持ち物を気付かれないようこっそり奪い、それを試験官である先生のところへ持っていきチェックをもらうこと。その後、気付かれないようにその男性へ再び返してあげること。ここまで出来たら合格。ただし、くのたまであることは始終バレてはいけない。
この課題をきのう聞かされたとき、私は途方に暮れた。
そりゃあ私だってくのたまの端くれだ。死ぬ気で頑張れば、相手の持ち物を持ち出して席を外し密かに返してあげることぐらい、まあなんとかなる。容易ではないけれど。でも、問題はその前。
まず、町で男性に声を掛けられること。
この第一関門が私にとっては何より難問だった。再三言うけれど私は可愛くもなければ美人でもない。加えて、化粧や変装の技術もあまり上手くない。誰からも声を掛けられずに一日が終わる可能性大なのだ。対策が見付からずに困り果ててしょぼくれた。
何か私でも出来る対策は無いものかと、役に立つ本を探しに図書室へ向かっていた時、
「あれ?」
たまたまタカ丸くんとすれ違った。
「どうしたのななしちゃん。なんだか元気無いね」
タカ丸くんは火薬倉庫からの帰りだったらしい。私のしょぼくれ具合が気になったらしく声を掛けてくれた。私が悩みを打ち明けると、彼は笑って、
「じゃあ明日実習前に僕のところへおいでよ! おめかししてあげるから」
なんて明るく引き受けてくれた。
「ななしちゃんは可愛いんだからさ、もっと自信を持って! おめかしすれば、きっとすぐに声が掛かるよ!」
初めは、タカ丸くんに手伝ってもらったら不合格にならないかなあと考えたけれど、先生は化粧を他人に手伝ってもらったら駄目とは言わなかったし、次回から自分でやればいいかと思って、素直に甘えることにした。
かくして今朝、タカ丸くんのもとを訪れた。タカ丸くんが遅刻してしまうんじゃないかと心配したけれど、忍たまの方は今日は授業が無いらしい。安心してお願いすることにした。
タカ丸くんの本業は髪結いであって化粧師ではないし、私はもとが不細工だから、どうせ大した仕上がりにはならないだろう。だけど自分でやるよりはまだ見栄えがいいかな。そう思って正直あまり期待はしていなかった。
だけどいざ仕上がってみたら、さすがタカ丸くんと言うべきか、それなりの町娘に仕上げてくれた。びっくりして何度も鏡を見返した。タカ丸くんは、ねっ可愛いでしょ、なんていつものふにゃりとした笑顔を浮かべながら、実習頑張ってね、と私の背中を押してくれた。

そして今は自室の中。もうすぐ集合時間だから正門へ向かわなきゃ。
「…よし!」
最後にもう一度だけ鏡を見て自分へ喝を入れる。一張羅を着た!お気に入りの巾着も持った!タカ丸くんがせっかく見栄えよくしてくれたんだもん、その分頑張らなきゃ!
いざ向かわんと立ち上がったところへ、
「ななしーっ!」
スパン、と。
いつもの如く戸を破壊せんばかりの勢いで、台風いけどん先輩は私の部屋へやって来た。


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