小平太


食満君は優しい。
重いものを持っていたらさりげなく手伝ってくれたり、備品を壊して困っていたら何も言わず直してくれたりする。
昨日だって、後輩達と町に出たお土産にお団子を買って来てくれた。私から頼んだわけじゃないのになんて紳士なんだろう。
同級生からは「食満君にきっと好かれてるんだよ」なんて言われた。ちょっと嬉しい。
暖かい陽気の縁側で、みんなで食満君の格好良さについて話に花を咲かせている時だった。
「おい」
後ろから、凄く凄くものすごーく不機嫌そうな男子の声がした。
振り返ったら、幼馴染の小平太だった。
「ど、どうしたの? 小平太」
あからさまに怒ってる。正直怖い。
同級生のみんなはそそくさと退散していった。ひどいよみんな! 一人にしないでほしい。
小平太はどす黒い雰囲気を纏いながら低い声で言う。

「お前が好きなのは私だろうが」

…理解に苦しんだ。
え、何それ。どういうことかな。
小平太はいつも言葉足らずだ。長い付き合いのもと、それだけはよく知ってる。だけど、だから、ええと
つまり小平太が言いたいのは、
「それって、私のことが好きってこと?」
「そうだよ! 今更何言ってるんだ!」
そうだったのか。小平太のことだから、ひょっとして私に散々アピールしてたのかもしれない。少しも気付かなかった…少しもっていうか全然知らなかったよ、ごめん。
「お前だって私が好きだろ!?」
んん。なんで小平太の中でそんなことになっちゃってるのかな。私、そんな素振りしてきてたのか。
「私は、」
わたしは…どうなんだろう。小平太が好き?
分からない。小平太は幼馴染で、そういう対象として見たことがない。
「ごめん…私は、小平太が好きかよく分かんない」
分からない時点でたぶん"好き"ではないと思う。
小平太は驚いた顔で少し仰け反った。んだけど、二秒後にはもとの表情に戻った。
さすが、細かいことは気にしないなぁ。
「だったら」
「え?」
ガクンと視界が反転する。びっくりして数回瞬きすると、小平太はいつの間にか私の上に居た。
どうやら縁側に押し倒されたようだ。
「小平太…?」
「だったら、」
ドキドキという心音が五月蠅い。

「今、惚れろ」

昔はまるで子犬みたいだったのに。
いったい、いつの間にこんな猛々しい獅子になってしまったのだろう。
頭の隅でそんなことを考えて
その真っ直ぐな視線に釘付けになってる隙に

その唇に、私は捕食されてしまった。


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