篝火花の試練-手合わせ


手合わせの善法寺視点
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道場で手合わせの授業があった後、保健室で怪我人の手当てを終えて自室へ戻れば、
「…ああもう」
留三郎が布団に包まって寝込んでいた。仕方ないなあ。
「保健室へ来れば良かったのに。僕の部屋は保健室じゃないんだよ?」
傍らへ腰を下ろせば、バツが悪そうにぴょこっと布団から頭だけ生やす彼。
「…べつに手当てしれくれなんて言ってないぞ」
「素直じゃないなあ意地っ張り。いいからほら、怪我見せてよ」
有無を言わさずそう告げれば彼はしぶしぶ起き上がって上衣を脱いで見せた。身体じゅう痣だらけ。酷いところは青を通りこえて黒くなってしまっている。
「凄いね。相手誰だったの?」
「…鉢屋」
どうしてこんなボロボロなのに保健室へ来なかったんだ、と言ってやりたいけどそこはプライドの高い留三郎のこと。保健室は他の生徒も治療で出入りしていたから、後輩にやられた傷を他人へ晒したくなかったんだろう。
「ああ、鉢屋の相手は留三郎だったのか。あの子さっき保健室に来てたよ、不破に引きずられて嫌々だったけど。凄い痣こしらえてたから相手は誰だろうと思ってた」
「勝ったぞ」
「だろうね。べつに留三郎が負けたなんて思ってないよ」
擦り剥けてしまったところにペタペタと消毒液を塗りたくれば、あいででで、と間抜けな声が上がる。でも聞こえないフリ。保健室に来なかったんだからこれぐらいは我慢しなさい。
その時、部屋の戸がスッと開いた。もう一人の意地っ張りが来訪したようだ。
「ざまーねえな留三郎」
揶揄しつつ入り口に寄り掛かった深緑の制服。
これまた負けず嫌いの文次郎である。
「んだとォ!?」
「あーはいはい動かない」
ただでさえ留三郎は血気盛んなんだから、文次郎もこんな時にややこしいこと言わないで欲しい。怒りに浮き掛けた腰を消毒液攻撃で封じ込めた。
「いででで痛い痛い伊作痛い!!」
「ところで文次郎は何しに来たの?」
僕の質問に一瞬だけ視線を泳がせてからごにょごにょと口を動かして見せる。どうやら言葉を探しているようだ。
まあ、似た者同士な二人のこと。ここへ来た理由もどうせ同じだろう。
「大事なことだからもう一回言うけど、僕の部屋は保健室じゃないよ?」
「…分かってるよ」
ジト目で見やれば、悪いと思ってる、なんて至極小さい声が聞こえてきた。ほんとかなあ。
「まあいいさ、怪我人を放っておくわけにいかないから。留三郎の次に手当てするから、そこに座って待ってて」
部屋の戸を閉め、これまたバツが悪そうに僕らの前へ座る文次郎。まったく君らはどこまで素直じゃないんだか。
「文次郎の傷は酷い?」
「まあ、長次に派手にやられた」
「文次郎と長次が戦ったの!? じゃあ長次も無傷じゃないだろうに…どうしてみんな保健室へ来ないんだよもう。あとでろ組の部屋へも行かなきゃ」
少し苛々してつい手付きが乱暴になる。傷口に布をあてがってバシッと貼り付けてやった。留三郎から悲鳴が上がったけどもういいや自業自得。このさい痛がればいいよ。
「そう言えば小平太の相手は誰だったんだい? 小平太も来なかったけど」
「与四郎」
「え? 与四郎が来てるの?」
「あ、そっか。伊作は知らなかったか。あとで会ってこいよ、喜三太のとこに居ると思うから」
「うん。そうするよ」
とりあえず留三郎の治療は一通り完了。文次郎と場所を入れ替わるよう指示した。
背を向けて僕の前に座り上衣を脱げば、そこにあったのは留三郎に負けず劣らずの酷い傷。よくまあ今まで我慢してたもんだ。
「与四郎が参戦するなんて意外な展開だねぇ。どっちが勝ったの?」
「与四郎だよ」
「え!? 小平太が肉弾戦で負けることってあるんだ! 与四郎ってそんなに強いの!?」
「いやまあ確かに強かったけど…」
「ありゃ与四郎に負けたっつーよりは…」
二人揃って言葉を濁す。え? どしたの? 何があったの?
「何?」
「…"色"に負けたよな」
「そうだな」
「色?」
「特等席でなぞのが観戦してたんだよ。あいつが叫んだら、小平太、動きが鈍っちまった」
なるほどそういうこと。その言葉だけでおおまか想像がつく。ななしちゃん、戦忍してる小平太を見て不安になったんだろうな。
「…だから俺は、色恋なんてやめろってあいつに言ったんだ」
ぼそり。手当てを受けながら文次郎が言葉を落とした。
「結局弱点になってるじゃねぇか…」
ななしちゃんには小平太の"帰る場所"であってほしい。
けれど同時に、文次郎の言うことも的を射ているのが現状だ。
留三郎も僕もフォローする言葉を探してみたけれど、これという台詞は見付からなかった。
「文次郎、」
「分かってる」
文次郎は、分かってる。当人達が居ない今だからこそ言っている。ここだけの話、なのだろう。
「俺だって現状、なぞのが小平太にとっての強みになってるならこんなに何度も強く言わねえよ…」
「・・・」
ななしちゃんの存在は小平太にとっての強みになってほしい。決して弱点になってほしくはない。
それが、僕らの共通の願いだ。
「…治療、終わったよ」
「ああ、ありがとな」
軽く礼を言ってから上衣を引っ被り、腰を上げたものの、文次郎はなかなか部屋を出て行こうとしない。
「?」
戸の前でウロウロと所在無げに惑っている。いったいどうしたんだろ。
「どしたの?文次郎」
「手当ては済んだんだから早く出てけよ」
「う、うるせーな。べつにいいだろ居るぐらい」
部屋から出て行きたくないなんて、何かあったのかな。
「自室に戻ればいいじゃないか」
「…や、それが…」
僕の素朴な疑問は核心を突いていたらしい、柄にもなく気弱な声でもごもごと話し出した。
「仙蔵が…最高に不機嫌でな…」
ああ、なんだ。それで戻りづらいのか。
「どうして仙蔵が不機嫌なの?」
「・・・」
なんとなく理由を察したらしい留三郎が口を挟む。
「さっきの授業、先生方にまさかの手違いがあってな。仙蔵だけ組み合わせの人数からあぶれて誰とも対戦できなかったんだ」
なるほど。まる一日ただ座って観戦させられ続けたんだ、仙蔵は。そりゃあ不機嫌にもなる。
「今戻ったら八つ当たりされるからな…」
ぼそぼそと話し続ける文次郎を見て、つい溜め息が漏れてしまった。だからって君がここに居続けたらきっと仙蔵の方が乗り込んでくるじゃな、
「文次郎!!」
スパン! 噂をすればなんとやら。手頃なサンドバッグを探していたらしい仙蔵が部屋の戸を壊さんばかりの勢いで開け放った。
ああもうどうしてこうなるんだろう。やっぱり僕ってば不運。
巻き込まれ型不運の留三郎と目が合って、二人一緒につい溜め息を吐いてしまった。























頂いたリクは「六年生視点」だったのですが、本編はい組の二人が好き勝手に喋ってたからまあいっかーと思い、よしここは出番の無かった伊作先輩で書くぞと意気込んだ結果、全く別のアフター番外編が生まれてしまいますた。どうしてこうなったorz

要約するなら、六年生は七松の負け方をあまり良くは思っていません。補足しなきゃ分からん文ですみません…

個人的に与四郎先輩の格好良さが全然描けなかった不肖の回です。ほんとは我が家のよすろーは七松より強いんだアァァ…

書いてて楽しかったです!
リクありがとうございました☆


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