篝火花の試練-体育委員会


体育委員会の平&次屋視点
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「滝!」
廊下を歩いていたところ背中へ浴びせられた明朗闊達な声。振り返らなくても誰の声かなどすぐに分かる。けど振り返らずに歩を進める勇気は毛頭無い。
「はい」
背後を見やれば案の定、七松先輩が立っていた。何やらえらく上機嫌だ。
「今日の放課後、委員会やるぞ!」
ゲッと内心青ざめると同時に諦めの念も湧く。もはや習慣である。
「雨ですけど…」
「だから私の部屋へ集合な! みんなにも声かけといてくれ!」
なんてこった。どうして今日に限って委員会があるんだろう。
ここ最近、七松先輩にはどうやら彼女なる存在が出来たらしく、委員会活動の回数も減って平穏無事に過ごせていたというのに。外が雨の今日ぐらい彼女の処でゆっくりするべきだ。っていうか、して下さいお願いですから。
「…分かりました」
が、私にそれを口走る意気地など無く。
「じゃあ今から後輩達に知らせてきます」
「ああ!」
踵を返してニコニコ顔の先輩へ背を向ける。
「あ、それとな」
「はい?」
まだ何かあるのか。
「今日からななしも委員会に来るぞ!」
それだけをズバッと言い残し、来た道をずんずん戻っていく七松先輩。
私といえば最後に放たれた衝撃の一言に、暫しその場で固まってしまった。


「なっ、ななな七松先輩の彼女さんも来るんですかああぁ」
「どどどどうしましょう次屋先輩ぃ彼女さんコワイ人だったらどうしましょうぅうぅ」
「し、知らねーよ俺に訊くなよ俺だって訊きてーよ」
「おおお落ち着けお前ら。大丈夫、大丈夫だ。たぶん大丈夫だ」
「何が大丈夫なんだよ」
「知らない何が大丈夫なんだ私が訊きたい」
「いま自分で言ったろ」
「そうなのか私いまそんなこと言ってたか。ていうかさらっとタメ語きくなシバくぞ三之助」
七松先輩の部屋へ向かって四人でのろのろと歩く。全員そろってひどく動揺していた。
何せ相手はあの七松先輩を落とした挙句、更に手玉に取るようなやり手のくのたまなのだ。くのたまというだけでも空恐ろしいのに、きっと美人で成績優秀な近寄りがたい感じの奴に違いない。それこそ山本シナ先生ばりに気が強かったらどうしようとか、七松先輩以上の暴君様だったらどうしようとか、ああもういろいろ考えたら気分悪くなってきた。
いかん、いかんぞ平滝夜叉丸。私がしっかりしなくてどうする。ほら見ろ、後輩のこいつらなんて私以上に真っ青…
「滝夜叉丸先輩、噂によると例の彼女さんは四年生らしいです」
「どんな人か知りませんか」
「え゛」
そ、そうだったのか。全然知らなかった。七松先輩の彼女の話なんて今まで別世界の話だと思ってたから、全く情報収集してこなかった。正確にいうなら毛ほども興味が無かった。
使えね〜、と三之助の方から小声が聞こえた気がして振り返る。けれど奴はあさっての方向を見ていた。あえて取り上げたら肯定してるようでムカつくから気のせいだと思うことにした。
私と同学年でそんなに優秀なくのたまが居たとは知らなかった。この私としたことが迂闊だった! 同学年てことはつまり同級生じゃないか。じゃあなんだ、アレか、タメ語きいても大丈夫なカンジか。いやいやそんなに優秀且つ七松先輩の彼女であるくのたまにタメ語ってどうなんだ。アリなのか。ってかどう声を掛けたらいいんだ。そもそも会話の共通点てなんだ。野暮なこと訊いたら七松先輩に殺されるんじゃないか。今までの印象を素直に述べるなら「おかげさまで委員会活動が減ってます感謝してます」か? うん、結局殺されるじゃないか。ああもう余分なこと聞きたくなかった。私どうすればいいんだよ泣きたい。もうやだ帰りたい。
「なんか…余計悩ませちゃったみたいですね…」
「滝夜叉丸先輩ごめんなさい」
相当青い顔をしていたのだろう、私の表情を見て後輩が平謝りしてきた。自分が情けない。
「顔も知らない相手に脅えたって仕方ないっすよ先輩。いーから行きましょ」
空元気な三之助の励ましを背に受けるのと、七松先輩の部屋へ辿り着いたのはほぼ同時。
いざ!
「…入るぞ、お前ら」
後輩三人に振り返って意気込みを述べれば、全員の咽喉がゴクリと鳴った。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「そんなわけで今日からななしも体育委員なんだ!」
どの辺から"そんなわけで"なのか全く不明だけど、噂のくのたまは委員長の隣にちょこんと座ってた。俺の前を歩いていた滝夜叉丸なんて露骨に二度見しやがった。おい露骨過ぎんだろと思ったけど指摘する気も起きない。
まあ滝夜叉丸の気持ちもかなり分かる。だって委員長の隣に居たくのたまは、驚くほどに普通のくのたまだったから。
「毎回は無理だろうけど頻繁に連れてくるからな! お前ら仲良くしろよー」
「宜しくお願いします…」
俺達の想像とは真逆の、かなり気が弱そうなくのたま。真っ赤になって俯いたまま膝上の袴を握り締めている。相当内気な性格と見た。
「・・・」
拍子抜けして全員で顔を見合わせる。まあ俺らが勝手に想像してただけだからこの人は別に何もしちゃいないんだけど。
なんつーか、安心した。
「まぁ、なんだ…。仲良くしてやろうじゃないか」
隣に座っていた滝夜叉丸が急にハリのある声を出す。ホッとしたらいつもの調子が戻ってきたらしい。さっきまで泣きそうな顔してたくせに現金な奴。
「この眉目秀麗で成績優秀な私のことを知らない奴なんて存在しないだろうが、改めて自己紹介してやろう! 戦輪の腕は天下一品、何をやらせても華麗にこなしてしまう、この私こそが…!」
うわっ始まった。めんどくせっ。
「俺、三年ろ組の次屋三之助です。宜しくお願いします」
「被るな三之助エェェ!!!」
「僕、二年は組の時友四郎兵衛です」
「僕は一年は組の皆本金吾です」
「あ、えと、なぞのななしです。宜しくね」
どこまでも特徴の無い、ごくごく普通のくのたま。暴君様に見合わずどうやら常識人らしい。
「んじゃあお互い自己紹介も済んだし、今から委員会を始めるぞ! えーっと今日は…どうしよっかなー…」
天井を仰ぎ見る委員長をぼんやりと眺める仕種。しかしアレだ、失礼かもしれないけどここまで地味だと委員長がゾッコンて噂もちょっと疑わしく思えてくる。本当に委員長の方が惚れてんのか?コレ。噂って噂止まりな時もあるし、実は逆なんじゃねーの。真相は委員長の方が惚れられてるとか…
「ちなみに委員会の先輩として忠告しておいてやるが、この委員会はそんなに甘いもんじゃないぞ…」
どさくさ紛れにコソッと話し掛ける滝夜叉丸。なんだかんだ委員会メンバーが増えて嬉しいんだろお前。
「ナメて掛かると地獄を見るからな」
「そうだよね…忠告ありがとう」
次の瞬間、俺達は噂の真相を目の当たりにした。
二人のコソコソ話に気付いた委員長から、一瞬だけ殺気にも似たパリッとした空気が流れ出た。唐突過ぎて正直ビビる。
「二人とも何を内緒話してんの?」
「わっ!」
二人の間にニュッと割って入る委員長。どうやら雲行きが怪しい。隣に居たしろと金吾も察したようで、慌てて三人で部屋の隅へ避難した。さわらぬ何とかに崇りなし!!
「いえ、なんでもありません!」
「ふーん…」
どうやら噂は真実だったようだ。こ、こんな委員長初めて見た…!
「べ、べつに内緒話じゃないですよ! 七松先輩の持久力は凄いんだよって話でした! ね、ねぇ!? 滝夜叉丸くん!?」
「あ、あああ! そうだ、その通り!」
「え? そうなの?」
険悪な雰囲気があっという間に早変わり。凄い…このくのたま、見掛けに寄らずしっかり委員長を転がしてる。
しかし委員長の次の発言で俺達の思考回路は再び氷河期に突っ込んだ。
「決めた! 今日の委員会は裏々山までマラソンにしよう!」
「え゛!!!?」
「ななしにいいとこ見せてやるぞ!」
何 故 そ う な る 。
いくら面倒事が嫌いな俺でもこれには黙っていられない。
「委員長、いくらなんでもこの天気でマラソンなんて…!」
「馬鹿! どんな状況にも対応出来てこその忍者だろ!」
一刀両断だ。
「無茶苦茶です!」
悲鳴に近い金吾の訴え。
常識人らしい例の彼女は委員長の隣で眉間に皺を寄せていた。
「やめましょうよ、七松先輩! みんな風邪ひいちゃいますよ!」
「え? うん。ななしが嫌ならやめる」
ヲイイイなんだこのエコヒイキ!! 露骨過ぎんだろ!! いくら俺達でも泣くぞ!!
「じゃあ塹壕掘りにしよう!」
「それも大して変わらないですって委員長!」
「こんな雨じゃ土だってグズグズだし…!」
「なんべんも同じこと言わせるなよ! 甘えるな!」
「私はやりたくないです七松先輩」
「うん、やめよう!」
だったらここはもうバレーしかないよなーそういやボールどこにやったっけなー、なんて言いながら押し入れを開け始めた委員長の目を盗んで『道場で筋トレ!』と彼女に素早く耳打ちした。彼女は俺の目を見て頷いてから委員長の背に向かって、
「先輩、今日は道場で筋トレにしましょうよ!」
って捲くし立てるように告げた。まるで委員長の視界にバレーボールが入らないうちに、とでもいうように。委員長は笑顔のままくるっと振り向いて、
「よし、筋トレしよう!」
なんてあっさり。単純なもんだ。



この日、なぞのななし先輩は委員長と俺達の通訳係に決定しました。
委員長に彼女が出来て本当に良かった。今ではつくづくそう思います。はい。






















あまり触れる機会が無いですが我が家の次屋は滝に対して常に反抗期です。だからこれが通常運転(笑)。尊敬はしてるけどあんま仲良くないっていうww

リク下さった方のみお持ち帰りぉkmです!
リクエストありがとうございました☆


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