鉢屋三郎


鉢屋三郎の鉢屋視点
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土井家にはろくな食材が無い為、二人そろってななしさんの店までやって来た。
「あ、美味い」
「ほんとー? 口に合って何よりだわ〜」
ななしさんの店で手料理を頂いた瞬間、口から素直な感想が零れた。食堂のおばちゃんに引けを取らない、美味い豆腐あんかけ。兵助が見れば泣いて喜びそうなメニューだ。
正直、昨日のきり丸作の夕飯を頂いてからあまり期待はしていなかった。ななしさんは味覚正常者なんだと分かってちょっと安心する。
「食べ盛りなとこ、こんなんしか出せなくて悪いねー」
「べつに食えりゃ何でもいいです」
「作り甲斐の無いセリフ言わないでよ」
自分用の定食を持ち、私の向かいへ座る彼女。
よくよく考えればななしさんと二人でメシって、変な絵面だよな。
「いただきまーす」
両手を合わせてから自分の茶碗を片手に箸を持つななしさん。向かい合わせに座っているため、自然と目が合った。
「・・・」
「…王子はさあ、」
「王子呼びやめて下さい」
「好きな子とかいないの?」
「無視かよ」
口いっぱいにご飯を詰め込みながらのほほんと訊かれる。質問に深い意味は無いんだろう、単なる会話の種だと表情が語っている。
「訊いてどうすんですか」
「べつにー、ただなんとなく。学園でモテてんだろーなあと思ってさ」
「イヤミですか」
「え?何?モテないの?意外なんだけど」
「不味い」
「ヲイなんで料理の話になんだコラ。さっき美味いつったじゃん」
彼女の方が大人だから、上から目線なのは当然のこと。だけど何だか腹が立つ。つい昨日まで先生と子供みたいな喧嘩してたくせに。
「・・・」
からかって、やろうか。
「知りたいですか」
「え?いるの?知りたい知りたい」
「好きです、ななしさん」
至極笑顔で囁いてみた。どうせ、大人をからかうんじゃない、とか言って頭を叩かれるのがオチだろう。
そう思ったのだけど、
「えっ」
想定外なことに、彼女は真っ赤な顔して動きを止めた。
…あれっ、なんだこの空気。
「ま、マジに取らないで下さいよ。困る」
我ながら柄にもなくしどろもどろになった。本気にされたら問題だ。私、学園で土井先生に殺されるんじゃないか。
「べ、べつにマジじゃないのは分かってるよ。ただ…」
茹蛸のまま俯いて喋る彼女。
「ただ?」
「土井先生の顔のままそんなこと言わんで。私、先生のその表情に弱いから」
これまた驚いた。どこまで土井先生に中毒なんだ、この人は。
「…じゃあこれからずっと笑ってましょうか」
「ごめんなさいごめんなさい王子呼びやめます許して三郎様」
直視出来ない、というように視線をふらふらさ迷わせる。こっちに見向きもしないけれど飯だけはしっかり詰め込んでるから、正面から見ればまるで挙動不審なハムスターだ。かなり笑えるなこのヒト。
「してみましょうか。この顔で疑似恋愛」
「陰間茶屋の男みてーなこと言うなよ!不埒だぞ三郎様!」
「満更でも無いくせに」
「うるさいなあ。私は土井先生の顔だけに惚れたんじゃありませんー」
「本物を妬かせるには手っ取り早くてイイ手だと思いますけど」
「妬くわけないじゃん。私に興味無いでしょ先生は」
「・・・」
「何故そこで黙る」
「…ああもう!ヤキモキすんなあ!」
本当どこまで素直になれないんだか、この大人達は。お互いこんなに想い合ってるくせに。とっととくっ付いちゃえばいいのに!
「え?」
「何でもありません、こっちの話です」



冗談めかして"好きです"と言ったけれど。
私はたぶん、ななしさんが好きだ。異性としてでなく、人として。
だから彼女には幸せになってほしい。その為には憎まれ役を買って出ても構わないと思う。たとえ先生から多少恨まれる羽目になっても、私が揺さぶりをかけて先生が行動を起こすならそれで万々歳だ。

「ははっ」
とことん私らしくない、な。
雷蔵に打ち明けたら笑われるかもしれない。























普段鉢屋を書くときって何考えてるか分かんない飄々としたキャラを目指して書いてるんですが、いざ鉢屋視点で書いてみても何考えてるか分かんない感じになっちゃいました…案外なんも考えてないのかもしれない…(笑)

リク下さった方のみお持ち帰りぉkmです!
リクありがとうございました^^☆


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