就活1


洗濯を午前中に済ませて、午後からいざ職探し。
きり丸は花屋の売り子のバイト、先生はきり丸のアルバイトの手伝いで犬の散歩に行くと言っていた。二人とも何でもこなせるから凄い。もういっそ職業を忍者から万事屋に変えちゃった方がいいんじゃないかと思う。
私も早いとこ職を見つけなきゃ。
「えーと…求人の掲示板は…」
町の真ん中に求人の張り紙が出てますから、ときり丸がさっき教えてくれた。私には今まで無縁の代物だったから、キョロキョロと辺りを見回して探しながら歩いた。どこにあるんだろ? 田舎もん丸出しだけど、まあいっか。
「お、あったあった」
きり丸の言う通り、町の真ん中の十字路の一角に張り紙だらけの看板があった。周りに、私と同じ境遇らしき人達がちらほら見受けられる。今のご時世、城勤め以外の求人なんてなかなか無いだろうからな。いわゆる就職難だ。
私も皆さんと一緒に覘いてみたものの、日雇いの募集ばっかりだった。うーん、困ったな。出来れば一ヶ所に長く勤めたい。だって日雇いの仕事ばかり選んでいたらきり丸と仕事の奪い合いになってしまう。
「怖いねえ、お姉さんも気を付けなよ?」
真剣に掲示板と睨めっこしていたら隣に居たおじさんに急に話しかけられた。いきなり何さ、ビビるじゃんかもう! 前フリぐらいくれよ。
「怖い?」
なんのこっちゃ分からずにそのまま聞き返す。え、怖いって何が? このおじさん、求人募集見てたんじゃないの?
「ごろつきだよ。これで五件目って書いてあるだろ」
話に追いつこうとして掲示板へもう一度視線を向けた。あ、本当だ。追剥をする無頼漢の連中が現れたから気を付けるようにって、求人の上に一番でっかく張り紙してある。やだよ私ってば、見てるようで何にも見てないじゃん。
「一番最後に被害にあった人は、なんでも昼間だったらしいよ? 怖いよなあ」
「え、本当ですか」
「早く御縄になるといいんだけど」
ひょっとしてここにいる周りの皆さんもこの記事を覘いてたんだろうか。あれ? ひょっとして求職中なのって私だけ?
「何人ぐらいの集団なんですかね。そんなに手強い連中なのかな」
「さあなあ。被害にあった人ん中にはオンナ子供も居たらしいから、とにかく気を付けた方がいいよ」
「そうですね」
見ず知らずの人と違和感なく会話しちゃうあたり、私ってばおばさんになった証拠だなと客観的に思ってしまった。

そんなこんなで二重になってる張り紙も全部めくり返して一通り見たところ(おばさんは周りの目なんて気にしない)、常勤の募集は三件ほどあった。うち一件は力仕事の運送業で男性のみの募集だったから、実質二件。野菜の振り売りと、反物屋の売り子。面倒臭がりの私にはどちらも向いてないけど、このさい選んでいられない。端から当たっていこう。

一件目、野菜売りの募集を出していた農家へお邪魔した。のだが。
「残念だけど一昨日来た男の人に決めちゃったのよ。せっかくだけど、ごめんなさいね」
畑で農作業をしていたおばさんに快く断られた。
「いえ、また機会があったら宜しくお願いします」
ちぇっ、なんだよ。張り紙剥がしといてくれりゃいいのに。

二件目、反物屋。
「ううん…申し訳ないんだけど、もう少し若い女性を募集してるんだよね」
「ですよねー」
店先で主人に門前払いされた。いや分かってたよ。分かってたさ。たとえ私が若くても断っただろうよ、反物屋の売り子なんてピチピチの超可愛い子じゃないと商売になんないもんね。
「何でも構いません。売り子じゃなくても、何か手伝えることがあれば…」
図々しくも食い下がる。けど、
「ごめん、他には何も困ってないよ。紹介出来るようなところもないし、他を当たってくれるかい?」
やっぱり駄目だった。

なんの収穫もないまま申の刻になった。項垂れながら求人募集の掲示板まで戻って来る。わずかな望みを賭けてみるも、張り紙が増えた様子は無い。
不本意だけど日雇いの仕事をしながら職探しするしかないか。これから毎日ここへ来よう。
仕方ない、今日のところは退散だ。せめて残りの三日間ぐらいは夕飯を作って二人を出迎えてあげたいから。
「夕飯…」
何か食材買って行こうかな。でもそんなことしたらうちの勘定奉行に「無駄遣い!」ってまた怒られるかな。私のお金でも駄目なのかしら。駄目だろな。あの子ときたら食費に関して土井先生の財布も握ってるようだったし。だけど昨日からまともなモノ食べてない。食べなれてない私にはやっぱりきつい。美味しいものが食べたいよう。
あ、そうだ。
「小腹に何かいれちゃえ」
まだ時間あるし、どっか寄ってくぐらいなら別にいいよね。


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