HITお礼 | ナノ
ゆめさんリク

 なまえの指がへそのあたりからすっーと撫で胸へと上がってくる。首筋からうなじへと手を滑らせて、オレの着ている服のボタンを指先で弾いた。「服を脱いで、ランサー」なまえが昨日の情事の名残で少しばかり掠れた声で囁く。こちらがその腰を抱き寄せてやると、伏せられたまつ毛が震えた。横目で窓の外を見ればまだ真昼間で、なまえが日が昇っているうちからしたがるのは珍しいと思いつつも好きにさせる。女から誘われて乗らないのは英雄の名折れだ。男の名折れでもある。差し出されたご馳走はありがたく平らげるのがオレの主義だ。
 だからその誘い乗ったぜ覚悟しろ!とばかりに嬉々として尻を揉んでやったのに、その手を即座に抓られた。何故だ!

「ちょっとなにやってんの!?」
「誘ってきたのはお前だろうが!」
「は!?何の話?私はただ服を脱げって言っただけだけど」

  なまえはさっきの情に濡れた雰囲気はどこに行ったのやら、オレの行動の原因が心底分からないというような顔で、ぽかんと口を開けて固まった。一方のオレも拍子抜けしてしまって、空気の抜けた風船のように気持ちが萎える。は、とため息を吐いて「じゃあなんでいきなり服脱げなんて言い出したんだよ」と問いかける。

「着替えさせようと思って」
「別に汚れてねえし必要ないだろ。つかさっき着替えたばかりだぞ」
「だからそのアロハシャツからまともで普通の服に着替えるの!」
「な!?アロハ馬鹿にすんな!」

 「はいいいから大人しくする!」アロハシャツの良さを説いて聞かせようとしたオレの口を手で覆い、なまえはボタンをすべて外し服を肩からずり下げる。追い剥ぎか!と抵抗したいが、相手はマスターで女で愛しいなまえだ。乱暴に出ることもできず、仕方なしにされるがままで結局上半身を裸に剥かれた。……はあ、まあいい。クローゼットを開けるなまえがうきうきと楽しそうだから、しばらくの間着せ替え人形にでもなってやるか。

「ってその大量の服どうした!?」
「ランサー用にってギルがくれたの」
「金ぴかがオレに施しだと……?いや、まて、あいつのセンスって」
「大丈夫。自分に対してのセンスは壊滅的だけど、他人に対してはちゃんと審美眼働くから、あの人」

 クローゼットに隙間なく詰め込まれた衣服と「ギルって美しいもの好きだから、ランサーにも着飾ってほしいんじゃない?」というなまえの言葉にゾッとする。男に美しいとか思われても嬉しくねえよ……!
 「じゃ、手始めにこれかな」なまえが持ってきたのはストライプの入ったスリーピーススーツ。最初からクライマックスな気がしないでもないが、黙って袖に腕を通す。

「やっぱりベスト似合うね、ランサー!ウェイターしてる時とか目の保養だもの」
「っ!」

 えへへ、と微笑むなまえに一瞬息が詰まった。なんだなんだ……!ウェイター姿を気に入ってたなんぞ初耳だぞ!
 妙に湧き上がってくる照れを咳払いで誤魔化しつつ、お返しとばかりになまえにネクタイを押し付け結ぶように言う。仕方ないなあとなまえはやわらかく紡ぐと、オレの首にネクタイを回す。

「ん、ごめんランサーもう少し屈んでくれない?」
「おう──!?」

 屈んだ途端にネクタイを引かれ、ちゅ、と響いたリップ音と口に掠った感触に目を見開く。

「ねえ、こうしてると夫婦みたい」

 目元を赤く染めて笑うなまえがかわいすぎるとか、その言葉はオレが先に言ってお前をからかうつもりだったんだとか、いろいろ思いはあったがすべて飲み込んだ。代わりになまえを力強く抱き締めてやる。苦しいよ、と抗議してくるなまえの髪を撫でて、つむじにキスを落とす。それから口にもしてやろうとしたのに身を引かれて躱された。ちくしょう。

「次は髪をいじるからベッドに座って」
「へいへい」
「髪留め、外すよ」

 下りた髪が肩に流れ、外された髪留めがサイドテーブルに音を立てて置かれる。

「ランサーはかっこいいんだから、もっと着飾らないと損だよ」
「んーでもオレがこれ以上かっこよくなってモテたら困るだろ?」
「それは……確かに……困る、かも」
「な。だから着飾るのはお前の前だけでいいんだよ」

 なまえはオレの髪を手に取り、高い位置で結んでいく。

「でも、私のランサーはこんなにかっこいいんだーって自慢したいわ」
「じゃあ今度デートに行こうぜ。そこで思う存分オレを自慢してくれ」
「やった、水族館に行こ!水族館!」

 なまえの明るい声を聞きながら目を閉じる。槍も持たない、戦いもない平和な日常はなまえがいるから耐えられる。なまえが誰も傷つけず、誰からも傷つけられずオレの隣で笑っていればそれでいい。
 「はい。できたよ」目を開けるとクローゼットに備え付けられた姿見がオレの姿を映し出す。スリーピースにぽにーてーるとかいうやつにされた髪。その髪にはいつもの髪飾りではなく、

「おい、なまえ。なんだこのひらひらしたやつは」
「シュシュのこと?かわいいでしょ」
「いやいや、この服にこれは合わねえだろ!というか女物だろこれ!」

 穏やかな昼下がり、頭のてっぺんについたひらひらに文句を言うオレと、「ギャップ萌えだよ」とか聖杯の知識でも補完できない言葉を言うなまえ。随分と生き急いできたオレだが、ここらで寄り道をするのも悪くない。
 平和な日常を、存外オレは楽しんでいる。

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