そういう始まり


 今でも夢に見る。じゃあな、と言ったあの人。再び会うことがあったのなら、その時はまたよろしくなと消えた彼。あの時の空の色は、どんなだったっけ。



 熱い。頭からつま先まで、まるでマグマのベッドで寝ているみたいだ。暑さから逃れたくて瞼を開けたら、目の前に骸骨がいて心臓が止まるかと思った。咄嗟に骸骨を蹴り飛ばして逃げ出す。
 一面火の海と化したそこは、冬木の街だった。

「ハァ、ちょっと、どうなってんの……っ」

 目が覚めたら見慣れた街は壊滅してて、変なモンスターが徘徊しているなんてB級映画の出だしみたいだ。陳腐にもほどがある。でも、この熱さは夢じゃない。瓦礫で躓いた時にできた膝の傷はまだ血が止まることはないし、黒鍵の柄を握る感触も確かに現実のものだ。これはまた、面倒なことに巻き込まれたに違いない。
 とにかくどこか落ち着けるところ──教会にでも行ってみようか、と振り返った瞬間、喉元目がけて何かが飛んできた。「っ!」間一髪それを黒鍵で弾き、数歩後ずさる。数メートル先、影に包まれているあれは──

「ライ、ダー?」

 あの紫色の長い髪は、確かにメデューサだ。第五次聖杯戦争の折、ライダーとして召喚されてランサーの宝具で消滅した。この場にいるはずはない。ああそれよりもさっさと逃げないとこのままじゃ殺さ、れ、

「アンサズ!!」

 懐かしい声の後に、いつの間にか距離を詰めてきていたライダーとなまえの間に炎が通り抜けた。警戒したライダーの足が止まる。声の先に視線を向けると、綺麗な蒼髪が熱風に靡いていた。

「おい!早くこっちに来い!今のオレじゃそいつの相手は荷が重い!」

 なまえは彼の名を呟くと、地を蹴った。



「貴方のそういうしぶといところ、キャスターになっても変わらないんだね」
「ああ?なんか他意がある言い方だな」
「別にそんなこと。頼りになると思ってますよ?」
「本当かァ〜?」

 今はキャスターとして現界しているクー・フーリンから頬を伸ばされて、なまえは思わず笑ってしまう。四方どこを見渡しても地獄の景色は変わらないが、彼が側にいるというだけでずっと心が安らぐ。

「まあなんだとりあえず、今回もよろしく頼むぜ」

 差し出された手をぎゅっと握った。
 


  
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -