▼ そういう始まり
今でも夢に見る。じゃあな、と言ったあの人。再び会うことがあったのなら、その時はまたよろしくなと消えた彼。あの時の空の色は、どんなだったっけ。
熱い。頭からつま先まで、まるでマグマのベッドで寝ているみたいだ。暑さから逃れたくて瞼を開けたら、目の前に骸骨がいて心臓が止まるかと思った。咄嗟に骸骨を蹴り飛ばして逃げ出す。
一面火の海と化したそこは、冬木の街だった。
「ハァ、ちょっと、どうなってんの……っ」
目が覚めたら見慣れた街は壊滅してて、変なモンスターが徘徊しているなんてB級映画の出だしみたいだ。陳腐にもほどがある。でも、この熱さは夢じゃない。瓦礫で躓いた時にできた膝の傷はまだ血が止まることはないし、黒鍵の柄を握る感触も確かに現実のものだ。これはまた、面倒なことに巻き込まれたに違いない。
とにかくどこか落ち着けるところ──教会にでも行ってみようか、と振り返った瞬間、喉元目がけて何かが飛んできた。「っ!」間一髪それを黒鍵で弾き、数歩後ずさる。数メートル先、影に包まれているあれは──
「ライ、ダー?」
あの紫色の長い髪は、確かにメデューサだ。第五次聖杯戦争の折、ライダーとして召喚されてランサーの宝具で消滅した。この場にいるはずはない。ああそれよりもさっさと逃げないとこのままじゃ殺さ、れ、
「アンサズ!!」
懐かしい声の後に、いつの間にか距離を詰めてきていたライダーとなまえの間に炎が通り抜けた。警戒したライダーの足が止まる。声の先に視線を向けると、綺麗な蒼髪が熱風に靡いていた。
「おい!早くこっちに来い!今のオレじゃそいつの相手は荷が重い!」
なまえは彼の名を呟くと、地を蹴った。
▽
「貴方のそういうしぶといところ、キャスターになっても変わらないんだね」
「ああ?なんか他意がある言い方だな」
「別にそんなこと。頼りになると思ってますよ?」
「本当かァ〜?」
今はキャスターとして現界しているクー・フーリンから頬を伸ばされて、なまえは思わず笑ってしまう。四方どこを見渡しても地獄の景色は変わらないが、彼が側にいるというだけでずっと心が安らぐ。
「まあなんだとりあえず、今回もよろしく頼むぜ」
差し出された手をぎゅっと握った。
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