光闇繋者
夜の学舎にご注意を
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夜の校舎にご注意を



 旧校舎に妖怪が出る。夜な夜な死霊たちが暴れていて、もし……迷い込んでしまったら二度と帰ってこれない。そんな噂が流れている。それ以外にも、まあ、細々とした妖怪の情報が流れている。リッくんは鴉天狗にそのことを責められていた。曰く、リッくんがいつまでも奴良組を継がないから、シマを荒らされていると言う。世の中、それに伴って妖怪ブームなようだ。
 鴉天狗は妖怪を率いてガゴゼ会を倒したときの話をした。リッくん自身は覚えていない、妖怪の部分。
 その話を屋根の上で聞いてると、鴉天狗の長男、黒羽丸――黒羽と呼んでいる――が来た。


「彼誰、何をしている」

「黒羽か。いやな、君の父とリッくんが言い争いをしているから見物をだな」

「悪趣味だな」


 そんな最後まで言ってないのにー。


「人の告白現場を見るよりは余程マシだろ」

「……」

「何か言ってくれよ」

「それは遭遇した事がないから知らないな」

「さよか。あ、そうそう。今日は晩は要らないって若菜様に言っといてくれない?」

「自分で言ったらどうだ」

「時間が無い。っつー事で頼んだ!!」


 リクオがわたしの名前を呼んで学校に行くのを見付け、黒羽丸に伝言を押し付けて学校に向かった。
 登校中、今朝の感想を言ってみた。今朝は散々だったな、と。見てたなら助けてよ、と返されたが、あの出来事はリッくんが思い出さないといけない。だから助けない。リッくんは後ろから気配を感じたようで


「カラス天狗!! いくら心配だからって学校まで――」


 振り向きながらそこまで言って、肩に掛けてある鞄が上がった。それは後ろにいた人物、カナに当たりかけた。


「リ、リクオ君…? なんの……つもりなの……」

「カッ…カナちゃん!?」

「私を…殺す気!?」

「そ、そんな…ゴ、ゴメンなさい!!」

「彼誰ちゃんもリクオ君に言ってよ!」

「え……わたしにくるの!?」

「彼誰ちゃん気付いてたでしょ。振り向いたよね」

「あー……ゴメン?」


 確かに気付いてはいた。大丈夫の過信はだめだったか。


「おはよ〜、奴良〜。どーしたんだよ、朝っぱらからケンカか?」


 リッくんの背中にクラスメイトが乗っかった。カナちゃんは驚いている。


「アレやった? アレ〜」

「え〜? 何だよ〜?」


 リッくんは茶番劇のようなことを始めた。ベタな日常に笑顔のリッくんに対し、男子生徒はアレをしたと訊いた。リッくんはとぼけるがおどけてちゃんと答える。宿題があったのだが、この男子生徒は忘れたようだ。それともう一つ、昼ご飯を頼んでいた。パシりのようだが、リッくんがいいならわたしは何も言わないが、度がすぎるなら言った方がいいだろう。
 クラスメイトの男子生徒は足早に校舎に入っていた。そのすぐあと、チャイムが鳴る。そういえば、カナは下駄箱に近い裏門からいつも来ていたはず。なんだけど。リッくんが疑問で訊ねたら、近い、とだけ聞こえた。カナにとって嫌なものが、在るのかもしれない。
 昼休み、そんな疑問を吹き飛ばすかのように、教室では清継がまた新しい話を持ってきて演説をしている。小学生の頃は信じていなかったはずだが、いったい彼はどうした。
 彼は現代の背景に溶け込みにくいこと、そしてより世代交代という確信に近いことを語る。妖怪はいるわけない。リッくんは言うが、なぜかやはり、清継は支持された。清継はわたしたちのところに来ると、小学生時代、妖怪はいないとバカにしたことを謝る。別に気にしてはないがわたしたちの話はウソ、と思われているようだ。そんで妖怪の存在を信じる理由がガゴゼ会から救ったリッくん……妖怪の姿をしたリクオに惚れたから、だそうだ。そうしてなぜか、わたしとリッくんは清十字団なる団の名誉会員となり旧校舎に出向くことになった。ほんとわけがわからない。





 夜、リッくんと待ち合わせ場所まで来た。すでに清継、島、それにカナもいた。奥には見知った顔の二人。


「遅いぞ、奴良君、形無さん」

「ごめんごめん」


 軽く謝ると「まったく……」と言いながら見知った二人に近づいた。


「やあ、どうも。ありがとう、来てくれて。失礼だが……名前は?」

「及川氷麗です! こーいうの、超好きなの!」

「歓迎するよ!」

「……倉田だ。オレも好きなんだ」


 氷麗の挨拶に、島の顔がだらしない。男が美人に弱いことなんて母様で知ってた。


「彼誰。ちゃんとリクオ様をお守りするのよ」

「やっぱり氷麗と青か」

「ええ」

「事前にリッくんに言ってよ。気づいてないけど」

「及川さん、形無さん。そろそろいいかい?」

「ああ、ごめん」


 氷麗とこそこそと話していたら清継が割り込んできた。話は聞いていなかったようだから良かった。清継は計画書片手に説明をし始める。旧校舎への道は難しい。学校からはフェンスが高いし、池もある。だから裏手の道を登るしかない。さいわいか、片道二車線の交通に気をつける以外は簡単だ。
 旧校舎に入ると、いるやいるや妖怪が。カナは怖いのが苦手で目を閉じてリッくんの服をつかんでいる。清継と島はリッくんが頑張って開けた扉を閉めたりして妖怪を見せないようにしていた。


「随分、古いなあ」

「旧校舎だからでしょ」

「今まで気付かなかったよ、この場所」

「興味無いにも程があるわよ……それ」

「はいはい。リッくん、大丈夫?」

「だ、大丈夫。……彼誰って及川さんと知り合いなの?」

「まあ、うん、顔見知り」


 曖昧に笑い、前を見る。今までのリッくんの苦労むなしく、清継と島は食堂のドアを開けた。懐中電灯で一点を照らすとそこには口元を濡らしながら何か≠喰っている妖怪がいた。それが動物だと気づくのに、数拍を要した。気づいて、妖怪が清継と島を襲いかかる。後ろにいた私では間に合わない。それに対処したのは、及川氷麗と倉田だった。


「リクオ様、だから言ったでしょ?」

「え」


 倉田の姿が青に、及川の姿が氷麗に変わり、リッくんの顔が間抜け面に変わった。


「こーやって若ぇ妖怪[ヤツラ]が………奴良組のシマで好き勝手暴れてるわけですよ。うせな。ここはてめーらのシマじゃねえぞ、ガキども」


情けない声を出しながら逃げていく妖怪。なんて言うか、シュールだな。


「若…しっかりして下せぇー。あなた様にゃ……やっぱり三代目継いでもらわんと!」

「…………え? な…何? ど…どういうこと…?」


 リッくんは雪と青を交互に見る。


「だって…今君ら学生で…うえ!?」

「だから、護衛でしょ」

「確か、カラス天狗が言ったはずですけど」

「四年前のあの日…これからは必ず彼誰以外にも御供をつけるって!」

「知らなかったんですか!? ず〜っと一緒に通ってたんですよ!」

「ずぅ〜っと!? きいてない…きいてないぞ!?」

「いいえ確かに言いました。このカラス天狗が!」

「いっ」

「……心配になって来てみればあんな現代妖怪[わかぞうども]」

「妖怪の主となる奴が情けねーの」

「だからボクは人間なの!! 彼誰!!」

「まだおっしゃるのですか!! あなた様は総大将の血を四分の一…」

「ボクは平和にくらしたいんだぁ〜!!」

「リ…リクオく〜ん、何〜?」

「カナちゃん」

「まだ…目ェあけちゃダメ!? まだ怖い〜?」

「え?」


 「ダメ」とリッくんに耳打ちした。


「あ…うん、もうちょっとかな…」


 理由は清継と島が気絶中だから。
 その日はとても、騒がしい一日だった。
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