光闇繋者
鵺の疑惑、大戦の終結1
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鵺の疑惑、大戦の終結
「起きたか?」
「……夜海?」
おう、と声が聞こえた。わたしは上体を起こして額に手を置いた。
「起きた起きた。けど、まだ怠いかな」
「そりゃ、あんだけ血を流してたらな。もう服は裂けてるし血で真っ赤に染まってたんだぜ?」
「そうなんだ」
「服はつららがやってくれた。どうなってんだ!って鴆が怒鳴ってたよ」
「……そうか。知らないんだったね」
「ああ」
右側に置いている刀を掴んで立ち上がろうとしたら左手首を掴まれる。そのままの体勢で夜海を見る。
「どこに行く」
「リクオ達の所」
「どこにいるかもわからないのに?」
「場所ならわかる」
「だとしてもその傷じゃ役立たずだ」
「それを決めるのはリクオであって夜海じゃない。わたしは奴良組の妖怪だ。それに、言わないといけないことがあるんだ」
互いに譲らない。夜海のわたしの手首を掴む力が次第に強くなる。
「なんで……」
呟きを聞き逃さなかった。だけど、彼誰はそれを聞き返さず、夜海の言葉を待つ。
「何で行くんだ? 塞がってても怪我してんだぞ」
「それでも、行かなきゃ」
あいつに話していないことはたくさんある。力のこととか親のこととか、生い立ちとか。形無しと呼ばれる理由すら、教えたことない。言わないって決めてるけど、やっぱり曲げられないことがある。
「夜海、わたしね」
「ん」
「決めたことは曲げたくない」
「……」
「奴良組に入ったのはあの人がしつこいのと言われた言葉が気になったことが理由。だけど、今はさ、ここが好きだから守りたい」
「……おう」
「わかってる。でも、今は奴良組の危機だから」
消えた。手は空しく宙を切った。
「バカか、あいつは」
鬼を纏いし者よ、闇に呑まれることなかれ。闇色の世界に棲む者よ、光を――
わたしは一度、そこで言葉を止めた。
――闇を、おそれることなかれ。
「彼の下僕は魔王の膝下で血肉となり、其の骸は魔王の力となりうるのか。否、力とならないだろう」
「彼誰!? あんた怪我は!」
「奴良組の出入り、寝てるわけにいかねぇだろ?」
「……どっち?」
「さあな? さて、来たのはいいが、あの刀抜いて仲間斬った後とは……。来るのが遅かったみたいだな」
大将が対峙していた。
「骸を背負う総大将と百鬼を背負う総大将」
「……」
「魔王の小槌……やはり蠱毒を刀に応用したものみたいなものだな」
「どういうことよ!」
「蠱毒は蠱術と呼ばれてる呪術の一種だよ。皿や壺の中に多くの毒虫が混在している状態のことだ。毒虫は生き残るために殺し合い、やがて一匹だけが生き残る。その一匹≠ノは死んでいった他の虫どもの恨み≠竍念≠ェこもり、呪われた生物が造られる」
「え?」
「あの刀、蠱毒みたいに斬った奴の血肉や恨みを力に変えてるんだよ。今玉章は一人で百鬼夜行背負ってるみたいだろ。つーか、空が白みはじめてから来るとか……何か来た意味ないし、情けないな」
その場に座り込む。傷口がやけに熱かった。
「き、傷開いてるわよ!」
「大丈夫だよ、見慣れてるから。気になるなら凍らせてよ。熱いの。雪女だからそれくらいできるでしょ? 凍らせても多分、わたしは生きてるから」
「帰ったらきっちり治療よ」
「はいはい」
「はいは一回」
「はーい」
戦いの中、やっぱり仲間がいた方が楽しいわ。
つららに寄りかかっている間に、玉章が語りだしていた。
「恨むなら非力な自分の血≠恨むんだな…」
非力な血。それは一体どういったものなのだろう。自分の思い当たる節は幾らでもある。妖怪でありながら退治屋の力を行使することとか、それだろう。恐れている、それが露見することを。恐れてはいけない。
「わたしは妖怪であり、彼らと同じ……」
怖がってはいけない。恐れてはいけない。何にも――
「呑まれるな」
動けないのは足手まといだった。リクオが斬られようとしているのに動かない。歯痒いと思うのは何故だろう。前は思わなかった。家族とは思う。思うけど、それは何か違う。彼が総大将となることは望んでいること。いつの間にか、気づかぬうちに感化されていた。
「ほら」
氷麗が手を差し延べる。何のことかと見ると氷麗は少し、頬を染めていた。
「あんたも奴良組だから、仲間だから一緒に」
「……あいよ」
少し、素直になるのもいいかね。
「玉章…てめぇの言うその畏れ=Aオレたちはテメェのどこに感じろってんだ…? てめーは刀におどらされてるだけで、てめー自身は……………器じゃねーんだよ。ボクがおじーちゃんに感じた気持ちは怖さとは違う…」
様子がおかしい。人間と妖怪とが、混ざり合っているのか?
「強くて…カッコよくて、でもどこかにくめない。だから、みんなついてゆく。あこがれ≠ネんだよ、畏れってのは」
だから、ここにいたいと思うのか?
「そんなじーちゃんが作ったこの奴良組、カラス天狗がいて……牛鬼が……みんながいるこの組を守りたいんだ。ボクは気づいた、それが百鬼夜行を背負うということだ!! 仲間をおろそかにする奴の畏れなんて誰も…ついていきゃしねーんだよ!!」
「だまれ」
玉章はリクオを斬る。胴が斬られて二つにわかれている。だが血は一滴も流れない。ゆらりと消えるとリクオは玉章の右腕を斬った。