光闇繋者
桜葉の対峙1
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妖怪が人間から歓声を受ける。
それはどういうことなのだろうか。
罵倒しか知らない。
憎い、恨めしい。
それよりもある感情は羨ましい≠セった。
桜葉の対峙
「来た」
妖気が発せられた。
「あそこだ!」
声が響く。それと同時に青田坊がそいつを羽交い締めにして捕まえる。叫び声とつかえまてろ、という声。憎い、恨めしい。だけど、彼のようになりたかった。わたしたちの思いは同じだった。似ている、けれども違う感情。それは心の奥底に眠る想いだ。それが罵倒しか知らないわたしたちの違いだった。頭部が飛び、軌跡を辿る場所には液体か滴る。頭部は舞台に立つリクオへと激しい憎悪を抱きながら直進した。
「喰い殺してぇやるぜよ、奴良リクオォオ」
犬神の頭部はリクオの首へと歯を立て噛み付いた。舞台前にいる生徒達はざわめき始めているる。犬神のそれはリクオの首を狩ろうと噛み付いたまま離れない。噛み付かれているそこからは液体が飛び散っている。
「……」
わたしは見ていた。まだ動くときではないと、知っているように。けれど、その手に落ちない程度に掴まれている、けれど力強く握られているものは、妖怪は触れるべきでないものだった。
「犬神」
わたしは呟く。二代目に連れて来られたわたしのことは奴良組の二代の総大将のみ知り、組員には拾った半妖と教えられていた。リクオや総大将は鵺ということのみ教えられている。
それは、わたしを敵意から守る為の手段であり、隔離する為のものだった。少しだけ、気づいている者もいるからだ。『力』を知っていてもそれは妖怪の『力』であるということと組員は教えられていた。
わたしは二代目に連れられて奴良組に来る前、居場所を見つけるために色々な場所を巡っていた。故に、犬神の存在も、作り方も、失敗した時の反動も知っていた。
――それだけが理由じゃないがな。
犬神とは呪いの術。餓えた犬を頭だけ出して土中に埋める。餓死寸前まで追い込み、そして食物を目の前の届かぬところへと置く。それを食べようと犬が首をのばしたとき、刀で首を斬り落とし祀る。放たれた恨みとも欲望とも知らぬ『黒い想い』は人を呪い殺す力となる。
これが犬神≠セ。
「彼は……」
術は失敗すれば何倍にもなって術者にかえる。失敗した術者は呪いを受け、犬神憑きになる。
(犬神使いが犬神憑きになった先祖の血筋。呪詛なんてそんなものだ)
彼は人を恨めば恨むほど力を発揮する。奴良リクオに覚醒させるほどの憎たらしい面があったということだった。
「まあな」
厭味のように口元を歪めた。
「首無!」
犬神が逃れようとする。だが、糸はさらにからみつく。
「ムダだよ。ボクの糸は…逃げれば逃げる程からみつく。毛倡妓の…一度好きになったら離れない性格と絡新婦の束縛グセがあわさった糸だからね……」
「その札は『封』をするするもの物だ」
負の感情が増した。
「離れろ!!」
「なんだ…?」
何かが巨大になった。頭も巨大化し、糸も札も意味をなさずに解かれた。
「首無…こいつは一体何だ!?」
「わ…わかりません。こんなの…どんどんデッカくなっていくなんて…」
舞台にある首をを持ち、胴にくっつける。
「く…首が戻った…」
「なんなんだ…こいつ…」
犬神はリクオを見る。
「まずい…リクオ様を狙ってる。今……リクオ様は人の姿…こんな巨体にやられたら…」
犬神は腕を振り下ろす。リクオの前に立っていた妖怪たちは飛ばされる。犬神の手はリクオの顔面を掴むとそのまま舞台袖へとぶつけた。鈍い音が響き、犬神の手が離れるとそこは斬られていて……血が流れていた。
「陽はとざされた。――この闇は、幕引きだ」