◎ 最終話
いとこのお姉ちゃんの話。
会いに行くたびに優しくて、いろんなことを教えてくれるお姉ちゃんは、大好きだ。僕の話をいつも笑顔で聞いてくれて、一緒に喜んだりしてくれる。
そんなお姉ちゃんに最近、恋人、ができたらしい。
「お兄ちゃんは麻衣子お姉ちゃんのこと、どれくらい好き?」
「なっ!」
土曜日の夕方。麻衣子お姉ちゃんの家に遊びに来てたら、お姉ちゃんと同じ学校のお兄ちゃんも遊びに来た。夜ご飯食べに来る約束してたんだって。もしかしたら僕は邪魔かもって思ったけど、お兄ちゃんは嫌な顔ひとつしないで、ご飯の時間まで一緒に遊ぼうって言ってくれた。
近所の公園で、ブランコを豪快にこぐお兄ちゃんに訊いてみたら、お兄ちゃんは一気に顔を赤くさせた。
「どれくらいって言われてもなー…」
こぐのをやめたお兄ちゃんは顎に手を当てて考え込む。綺麗な黄色の髪に負けないくらい赤く色づいた顔は、それでもやっぱりかっこいい。
「それより、麻衣子っちは家で俺のことなんか言ってたりしないっスか?」
「なんか、って?」
「なんかっスよ。好きとか嫌いとか…うん、何でも」
「…はっきり聞いたことないけど、お兄ちゃんが来るって言うときとかは、すごく嬉しそうだよ」
「…そっか」
お兄ちゃんは小さくガッツポーズをした。
言われてみれば、お姉ちゃんが自分からお兄ちゃんのことを話し出すことは無い。けどたぶん、訊いたらいろいろ話してくれると思う。
お兄ちゃんの隣のブランコに座ってゆっくりこいでみると、風が少し冷たかった。もうすぐ冬が来る。雪が降ったら、お姉ちゃんと、お兄ちゃんと雪だるま作ってみたいなぁ。
「けっこん、するの?」
「えっ、ちょ、イキナリ!?」
お兄ちゃんが座るブランコの鎖が音を立てる。慌てるお兄ちゃんの顔はもっと赤くなって、かっこよさが少しだけ減っちゃったかも。
「だって、好きならけっこんするんでしょ?こないだ読んだ本に書いてあったよ」
「そう簡単な話じゃないんスよ…」
「?」
「テツヤくんも大人になったらわかるっスよ」
お兄ちゃんは笑って僕の頭をなでる。
大きな手だなぁと思ってるとお兄ちゃんのポケットから音が鳴った。
「あ、麻衣子っちからメールっス!ご飯できたって!じゃあ帰ろっか」
「うん!」
帰り道、お兄ちゃんはニコニコしながらはなうたを歌ってた。お兄ちゃんの提案でおんぶしてもらったら、今まで感じたことがない高さにびっくりした。お兄ちゃんはいつもこの高さからみんなを見てるんだ。すごいなぁ、巨人みたい。
お兄ちゃんの肩に顎を乗せて、真っ赤なほっぺをつんつんしてみたら、くすぐったそうに笑った。
「涼太さんテツくん、おかえりなさい」
「ただいま」
僕がただいまを言う前にお兄ちゃんは僕をおろして、お姉ちゃんをぎゅうっと抱き締める。よくわからないけど、お兄ちゃんもお姉ちゃんも同じくらい幸せそうな顔してた。
ふたりはもう大人なのかな。
そう考えながら靴をぬいでたら僕のお腹から大きな音が聴こえてきて、ふたりが僕を見て一緒に笑った。
「俺も腹ぺこっス!」
「たくさん作ったので、お腹いっぱい食べてくださいね」
恋人って幸せなんだなぁって、つながれたふたりの手を見ながら思った。
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