飴玉ボーダーライン | ナノ

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「どーいうことっスか」

「そのまんまだよ。俺が気付いた時には腕縛られて制服破かれてた。まだ未遂だったのが救いだけどな」


珍しく樋口は深刻そうな顔をしている。嘘じゃ、ない?
だとしたら、全部、それが原因?


「どこのどいつっスか!?そんなことしたのは!」

「まぁ落ち着けよ。そいつにはこないだ俺がしっかり脅し…じゃなくて、話つけといたから。それより、問題なのは麻衣子ちゃんの方だろ」

「……なんで麻衣子っちは口止めなんか…」

「わかんねーよ。ただ、助けた後俺がバスケ部の人達に知らせようとしたら、強く止められた。そんでお前にも言うなって」




俺は何も知らなかった。気付けなかった。勝手なことばっかり思い込んで、本当のことにこれっぽっちも近付けなかった。

守りたいとか、思ってたくせに。
それどころか俺のせいでそんな目にあわせちゃって。

俺に恨み持ってる奴なんて心当たりがありすぎて誰だか特定ができない。俺だいたい何でもできるし、この顔だし。男なんてコンプレックスの塊のような奴が多いのだ。
だから俺が恨まれたりするんなら別にいい。でも、麻衣子っちまで被るのはダメだ。

深く考えるまでもなく察した。
麻衣子っちを守るために俺ができることは、関わらないようにすることだけなんだって。

俺が近くにいるから、ダメなんだ。

前も同じこと思った。俺のファンの子達に麻衣子っちが連れて行かれたとき。でも結局俺が守ればいいだとかヒーローみたいな考えを建前にそうしなかった。その結果がこれだ。もっと酷いことになった。

俺は好きな女の子一人守ることすらできない。



「樋口、俺、もう麻衣子っちのそばに…友達としてでもいられないっスね…」

「おいい!?なんでそーなるんだよ!?」

「だって俺がそばにいたから麻衣子っちはそんな目にあったんでしょ…?なら、離れるしかないじゃないスか」

「離れるってお前…」


無意識のうちに拳を握り締めていた。
そんな俺を見て、樋口は大げさにため息をついた。


「…ったく、全か無の法則じゃあるまいし、極端すぎんだろ。それに、全部お前のせいってだけでもねーよ。そいつ、本気で好きって言ってたぜ、麻衣子ちゃんのこと」

「どっちにしろ、俺のせいで酷くなった事に変わりないっしょ」

「否定はできないけどな。でもそれで、黄瀬はマジで離れられんの?」

「…っ、」

「な?無理だろ?」


小馬鹿にするように樋口は笑った。自分でもわかる。俺の顔に答えがしっかり書いてあるからだ。

できるわけないし、したくないって。



「俺が麻衣子ちゃんとの約束破ってこうやって今お前に話してるのはさ、黄瀬にしか無理だと思ったからなんだぜ」

「俺にしか…?」

「このままじゃ麻衣子ちゃんは完全に一人になっちまう。前以上に人と関わらなくなっちまってるからさ。そこを何とかできるのはお前だけだって言ってんだよ」

「何とかって、随分ざっくりっスね…」

「だって俺じゃ無理だもん」

「何でそんなはっきり言っちゃうんスか?麻衣子っちをそんだけ見て心配してるんなら樋口だって、」

「俺さ、振られちったんだわ」

「………は?」


まるでくじ引きでちょっといいモノ当たりました、とでも言うような明るい言い方だった。


「どーしてもほっとけなくてさ。全身全霊で気持ちぶつけて、少しでも麻衣子ちゃんの力になりたいと思ったけど、ダメだった。俺が何を言っても麻衣子ちゃんは驚いた感じもなく、ただ首を横に振るだけだった」


樋口の気持ちは痛いほどわかった。誰だって好きな女の子がそうなったら助けたいと思うだろう。きっかけを知っているなら尚更。


「ま、弱ってるところにつけ込もうっていう下心が全く無かったかっつーと、アレだけどな。…まー、つまり」

「……?」

「俺の言葉じゃ届かない」


真っ直ぐに俺を見つめてくる目から視線を外すことはできない。一筋の嘘も見えない言葉が、俺の中にすんなりと入ってくる。


「悔しいけど、前から薄々気付いてたんだぜ?俺がどんだけ友達として頑張ってみても、麻衣子ちゃんの中ではお前に敵わないって。サッカー部よりバスケ部選んだ時から、麻衣子ちゃんにとって居心地がいい場所はお前のところの方だって、ほんとは勘づいてた」

「………」

「だからさ、行ってやれよ。そんでみんな麻衣子ちゃんのこと好きなんだって、だから一人になるなって、伝えてくれよ。お前の言葉なら絶対伝わるからさ」


こいつがモテるってのが今初めて本当にわかった気がする。
すっげー悔しいはずなのに。諦めたくなんかないはずなのに、それでも麻衣子っちにとって何が一番いいかって本気で考えてる。
底抜けに、強いやつだ。



「じゃ、話はそんだけだから。後は頼んだぜ」

「…もちろんっス」



俺にしかできないこと。


手をヒラヒラと振りながら帰っていく樋口の背中に、決意を込めて返事をした。




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