飴玉ボーダーライン | ナノ

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ぱしゃぱしゃと雨が地面で跳ねる音。傘が雨粒を受け止める音。雨の日には雨の日ならではのよさがあって、とっても素敵だと思う。
片手に提げた買い物袋からはさっき買ったばかりの鳥の餌がコロコロと転がる音がする。雨の日の買い物は人が少なくて少し助かる。タイムサービスがいつもより多くあったり。
だけどちょっと買いすぎちゃったかもしれないな…。うーん、考え無しにカートに次々と物を入れちゃった自分が憎いなぁ…。傘があるから両手で抱えることもできないし。



「わっ、」

「――っ、すみません!」


曲がり角で誰かとぶつかってしまった。その拍子に落とした傘を拾う前に頭を下げる。


「本当にすみません、私考え事してて…」

「いーよいーよ、俺もよく前見てなかったし。っていうか傘!」

「え、あ…、ありがとうございます」




私が落とした傘を拾い上げて爽やかに笑う男の子は背が高かった。そう言えば涼太さんともこうやって出会ったんだっけ…。
――この人、どこかで…。



「ははっ、おでこ赤くなっちゃってる」


腰を屈めて私の顔を覗き込んでくるこの人のこと、私、知ってる。


「同じクラスの…、樋口さん、ですよね…?」

「おっ、俺のこと知っててくれたんだ、サンキュー」

「先日は先生に頼まれて重い教材運んでましたよね」

「そんなん気に掛けてくれてたんだ!」



そう、思い出した。授業で使うからと先生に言われて、見るからに重たい荷物をひとりで運んでいたっけ。



「はい。ですがあの時手伝えなくてすみませんでした…。気付いていたのにどうしても手が離せなかったんです」

「いーってそんなの。むしろ女の子にあんなん持たせらんねーもん」



同じクラスとは言え初めて話す樋口さんは、とても感じがいい人だ。爽やかで明るくて、どことなく涼太さんに似ている気もする。


「つか、今も重そうなモン持ってんな…。貸して」

「え、あ、いいですよ!」



樋口さんは私が持っていた買い物袋をひょいと持ち上げた。突然のことだったからすんなり渡してしまったけれど、いけないいけない。



「別に盗るわけじゃねーって」

「それは分かっていますが…申し訳ないです」

「遠慮なく頼りなよ。俺も今用事が済んだところで暇だしさ。家どこ?」

「では…少しだけお願いします…」



こういう時にどう断るのが一番いいのか分からない。決して迷惑じゃないけど申し訳なくて、それを正確に伝えられたらいいんだけど…。


歩きながら樋口さんはいろいろ話し掛けてきてくれた。涼太さん以外の男の人とこんなに話すのはめったにない…というか全くないけど、樋口さんはそんなことを忘れさせてくれるくらい気さくな人だ。



「気になってたんだけどさ、水谷さんって隣のクラスの黄瀬と仲いいの?うちのクラスの男子が話してたんだよねー」

「涼太さんは、お友達…です」



優しくて素敵な人。私の大切なお友達。

答えながら口元が綻ぶのを感じる。初めての友達があんなに素敵な人だなんて、私はこれ以上ないほど幸せ者だと思う。



「友達かぁ…」


樋口さんにはきっとたくさん友達がいるんだろうな。涼太さんもだけど、明るくて親しみやすい(例えば私にも話し掛けてくれるような)人は、どこでだって人気者なはず。



「ねー水谷さん、俺とも友達になろーよ」

「え?」


驚いて見上げると、ね?と樋口さんはにっこり笑う。


「実は俺さ、前から水谷さんと仲良くなりてーなって思ってたんだ」

「私と…ですか…?」

「うん。やっぱいきなりじゃダメかな?」

「そんなことないです!私でよければ、」

「じゃあそーゆーことで!改めて、俺は樋口晃。よろしくな」

「わ、私の方こそ、よろしくお願いします」


器用に傘を首と肩で挟んだ樋口さんから私の買い物袋を持ってない方の手を差し出されて、きゅっと握手。



「ね、下の名前で呼んでもいい?」

「もちろんです。私の名前は…」

「麻衣子ちゃんだろ?知ってるよ」



どうして知ってるんだろう…?
首を傾げたら樋口さんはだって同じクラスだしと笑った。


(涼太さん、私新しい友達ができました。)




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オリキャラの樋口くん。彼の名前を決めるのにかなり時間がかかってしまいました。








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