「(今日黄瀬に一緒に帰ろうって言う、言うぞ俺は…!)」
よし頑張ろう俺。やればできる男だ俺は。
昨日、兄貴にものすごくニヤニヤした顔で「明日からできるだけイケメン君と一緒に帰れ」と言われた。兄貴の言う通りにするのはなんとなく癪だが、さすがに今日何も進展がないのは俺としても何と言うか、男が廃る気がして、今日黄瀬に一緒に帰ろうと言うつもりである。
バッシュ音とボールの音、あちこちから聞こえるバスケ部特有な喧騒の中、俺はいつどうやって黄瀬を誘うかをマネージャー業そっちのけで必死に考えていた。
「(問題はいつ黄瀬に話しかけるかだよなー…。練習が終わった後か、休憩中か、…って今休憩中じゃん、いやあでもさすがに今すぐってのは心の準備が「センパイッ!」おぶふッ!?」
突然背中に来た重い衝撃に思わずよろけそうになる。
どうやら誰かに背中を叩かれたらしい。危うく練習メニューのボードを落としそうになった。
誰かと思い振り向けば、
「き、黄瀬か、びっくりした」
黄瀬だった。
「何度も呼んだのにセンパイ気付かないんスもん、ぼーっとしてたんスか?」
「あ、いや……まあ」
にこにこと笑顔の黄瀬に曖昧な返事。
駄目だ、
付き合ってるってことを意識した途端会話ができん。
今まで普通に会話できていたはずなのに、黄瀬の顔が直視できない。何を言えばいいのか分からなくなる。
「(…待て待て、)」
よく考えろ、
「(今、黄瀬に一緒に帰ろうって言う絶好のチャンスじゃん…!)」
休憩中にわざわざ黄瀬の方から来てくれたのだから、この機会を逃す理由はない、頑張れ俺!
「あ、のさ、黄瀬」
やべえ、俺すごいドキドキしてる
「?なんスか?」
こてん、と首を傾げる黄瀬。さすがモデルだ様になっている。
「…あのな、」
よし、言え!
「今日、一緒に帰らない……か?
ていうか、これからできるなら、毎日一緒に帰りたいんだけど…」
「………」
言った!!!!言えた!!顔途中で逸らしちゃったけど!!!
と心の中で盛大なガッツポーズをしてしばらく脳内がお祭り状態だったのだが、ふと、黄瀬の返事がないことに気付く。
…え、もしかして、駄目、なのか。
ドキドキしながら返事を伺う。
逸らしていた顔を戻して、恐る恐る黄瀬の表情を伺えば、
「…………」
黄瀬の顔が、真っ赤だった。
「き、黄瀬…?
もしかして駄目か?」
そう聞けば、黄瀬はびく、って震えて、
「ぁ、っ……ぜ、っ全然!全然大丈夫っスよ!よゆーっス!」
「、そっか、」
すごく嬉しそうな笑顔で、そして真っ赤な顔でそう言う黄瀬に、俺は自然と笑みが零れていた。
あ、世界が色づいた
(すでに始まっていることに気付かない)
[*prev] [next#]