もし夢の続き主がサカールで捕まったら7
前のお話


「どうしよう、俺、こんな、」

ロキへとあてがわれた部屋へと戻り、ベッドの上に横たえられても症状なんて勿論良くなるわけもなく、むしろ外からの刺激が重なりただただ悪化の一途を辿るだけだった。
身体が熱い。熱い。身体が熱の解放を訴えている。触って欲しい、さわって、
意識がぼんやりと曖昧になっていく中、ロキが俺の名前を呼ぶ。その声色や表情からはロキの感情は読み取れない。やがて俺に向かって手が伸ばされていく。もしかして触れてくれるのだろうか。ああ、それならはやくさわってほしい、きもちよくしてほしい、
──でもだめだ、ロキにこんな姿を見せるわけには、

「や、さ、触るな、」

自分の半濁する意識を振り絞り、伸ばされた手を拒絶した。触れられたくなくて、反射的に自分の身体を抱きしめる。

「………」

俺の言葉にロキは何も言わなかった。ただ俺を見て、俺へと中途半端に伸ばされた手は止まっている。
ああ、そんな顔をしないで、違う、違うんだ、

「いま、触られたら、まじで、やばい、から」

声を出すことさえ辛い。怖い。あらゆる刺激が快楽に変換されてしまう今の自分の身体が怖い。今、少しでも気を抜いたら自分がどうにかなってしまいそうで、どうしようもなく恐ろしかった。でももうこれ以上、彼には心配を掛けたくない。迷惑も掛けたくなかった。

「心配しなくていいよ、きっと、しばらくしたら治るし、」

外からの刺激から守るように身体を丸める。なんでもないよう聞こえるようにと絞り出した俺の言葉に、ロキは見るからにその眉を顰めた。正気か?とでも言うように。

「…お前、まさかそれが治まるまで何もせずずっとそのままでいる気か?」
「………」

ロキの問いかけに俺は何も応えない。無言は肯定だ。それはロキも分かっているだろう。やがてはあ、小さく息を漏らす音が聞こえる。そして俺の名前をぽつりと呼んで。

「……グランドマスターの薬は強力だ。飲んだら最後、しばらくは治らないぞ」
「は、…な、なんで知ってるんだよ、」
「本人が自慢げにその効能を話していたからな。一杯飲んだだけでもその日は大変だったそうだ、一晩で彼の相手をした手練れの少年たちの腰が使い物にならなくなったらしい」
「………………」
「……おい、」

つらつらとグランドマスターから聞いたという効能を話すロキだが、聞いているうちに途中から全く耳に入らなくなってしまった。聞けば聞くほど俺が飲んだその媚薬は相当にヤバイ代物だったと分かってしまって、恐ろしくなったから。からからと口の中が渇いていく。今度は違う意味でばくばくと心臓が音を立てる。ぐ、と口をひき結んで、体を抱きしめる指には力が入る。いきなり無言になった俺に何かおかしいと思ったのだろう、ロキはどうしたのかと俺を見た。

「…お、俺、もしかして死ぬ………?」
「……、……」

頭が回らないまま結論に達して口に出したその言葉に、ロキは一瞬面食らった様な顔をした。が、段々とその表情は呆れたものになっていく。そして呆れた声色のまま、けれど言い聞かせるように俺の名前を呼んだ。

「…………何を馬鹿なことを言ってる、媚薬如きで死ぬわけないだろう。まあ、2、3杯飲んだら腹上死もあり得るかもしれないが」
「ふ、ふくじょうし」
「ましてや一口啜ったくらいだ。しばらくはそのままだろうが、一晩は続かないさ」
「そ、っか…」

は、と溜め込んでいた息が吐き出される。
なんでもないことのように言ったロキのその言葉に安堵の息が漏れる。正常に頭が働いていないせいもあるだろうが、考えがどんどんと悪い方向へと向かっていったから。そんな俺を見て、ロキは静かに口を開く。

「…怖いんだろう?」
「…う、」
「体内に取り込んでしまったのなら、それを早く出してしまえばいい。いつ治まるか分からないまま熱に苛まれながら徒らに時間を過ごすよりも、その方がずっと楽だぞ」

淡々と繰り出されるロキの言葉。確かにそうかもしれない。でも。

「でも、俺、こんな、変だ」

視線をおろおろと彷徨わせる。そうだ、今の俺は変なのだ。今はまだ、辛うじて我慢できているけれど。何も触れられていない状態でも必死に耐えているのに、もし触ったり、触れられたりしたら、これ以上の快感に耐えられない気がしてならないのだ。
これ以上頼りたくないのに、心配を掛けたくないのに、それでも縋るようにロキを見つめてしまう。エメラルド色のきれいな瞳は瞬きをして、俺を見つめ返す。

「………変じゃない」
「……ロキ、」
「怖がらなくていい、それは薬のせいなのだから。お前の反応は正常だ、変じゃない」

同じ言葉を繰り返して、そっと手が伸ばされる。表情は硬いままのくせに、声色は柔らかくて、穏やかで。不安だったけれど、今度は拒まずにその手を受け入れた。俺に触れるロキの手つきはまるで壊れ物を扱うようなそれで、不思議と心が穏やかになっていく。魔法みたいだ、……ああきっとそうだ、魔法を使ってくれているのかもしれない。

「…私がいる」

「大丈夫だ」。ロキの触れられた手とその言葉に、ひどく安心したことだけを覚えている。








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