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 しばらく鳴り続ける目覚まし時計のアラームと共に憂鬱な気分で目を覚ますのが、いつもの朝。
 ――のはずなんだけど。

 今日は、アラームよりもやかましいちびっこが枕元でふよふよと飛び回って、俺を起こそうと必死になっていた。

「いちろー、いちろー! おきて、朝だよー」
「……」
「めざまし時計鳴ってるよ、ちこくしちゃうよ」
「んー」
「ちこくしたら“すずめの涙”ほどのお給料が減らされちゃうんでしょ、兄上が言ってたもん」

 スズメの涙ほどの給料。
 実際そんなに高い給料をもらってる訳じゃないけど、こうもハッキリと他人に言われると腹が立つ。

「うるさいな……。何だ、まだ六時じゃねーか」
「だって、時計ずっと鳴ってたよ」
「この時計は目覚まし第一弾。いつもはこっちの第二弾が鳴り始めるまで寝てるんだよ」
「えー、“早起きは六尺の得”なのに!」

 よく分からないことを言いながら小さな身体でよいしょ、よいしょ、と一生懸命俺の布団をめくろうとするアニキは、朝っぱらから腹立たしいほど元気で、ぷりぷりのケツを丸出しに……あれ?

 褌一丁かと思いきや、両手で布団の端をつかんで羽をはばたかせるアニキの首に、ピンク色の何かが巻き付いている。

「……首に何巻いてんだ」
「やんっ!」

 ちびっこい身体をつまみ上げ、首に巻き付いたピンク色の紐のような物を引っ張ると、アニキは俺の手から紐を奪い返してもう一度キュッと結び直した。

「乱暴しないで!」
「いや、乱暴っていうか……」

 よく見ると、それは保険の営業さんから貰った菓子か何かのラッピングに使われていた薄ピンク色のリボン。
 捨て忘れてテーブルの端に置きっぱなしになっていたその細いリボンを、アニキはくるんと首に巻き付けて長さを揃え、ネクタイ状に結んでいたのだった。

 褌にネクタイ……。
 何とも言えない斬新な格好にツッコミを入れられず黙る俺の反応をどう捉えたのか、ちびっこ妖精はモジモジしながら聞かれてもいないことに言い訳をし始めた。

「えっとね、褌妖精の褌は特別だからお洋服とかは着なくてもさむくないんだけど、今日はいちろーと“会社”に行くからおめかししたかったの」
「会社に!?」

 いかにも寒そうなその格好で寒くないなんてどんな褌なんだとか、褌とネクタイの組み合わせでおめかしというのはどうなんだとか、色々とツッコミを入れたいところは満載だけど、何よりも気になったのは“会社に行く”という一言だった。

「だって、運命の六尺褌の相手をさがすんだもん」
「いや、会社に来られても困るし!」
「でも行きたいの」

 いくら何でも、この褌姿のちびっこいいがぐり坊主と出勤なんてしたら、周りの人間にどう思われるか分からない。
 というか、未知の生物出現に会社中が大パニックになってマスコミなんかが押し寄せた挙げ句、アニキが研究施設送りになったりするんじゃないだろうか。



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