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 ツッコミが入ってから“やろうと思ってた”と言うあたりがいかにも怪しいが、小さな羽根をパタッと羽ばたかせて、ちびっこアニキは何故か誇らしげに胸を張った。

「お腹もいっぱいになったから、今からがんばる」
「……だったら最初から頑張れよ」

 少なくとも、食べる物に困ってネコのカリカリに手を出す事態に陥る前にどうにかするべきだったんじゃないのか。

「つーか、誰が褌を締めてるのかなんて分からないだろ」

 今時ふんどしを持っている奴なんて少ないだろうに“褌を愛する者の運命の恋を叶える”というマニアックな条件が気になってアニキの頬っぺたをチョコンと突きながら呟くと、アニキは口を尖らせてぷるぷると首を振った。

「ちゃんとわかるもん」
「一人一人穿いてる下着を確かめて回るのか」
「そんなことしなくても、褌妖精には便利なお道具があるの」
「便利な道具?」
「うん!……えっとね」

 一体どんな道具だ、と俺が尋ねるより先に。
 いがぐり頭のちびっこ妖精は、小さな褌の中に手を突っ込んで、ゴソゴソと何かを探し始めた。

 ちょっと待て。
 何でまた、そんな所に収納を……。

「あった! じゃーんっ」

 完全にドン引き状態の俺の表情には気付かず、アニキは褌の中から取り出した小さな眼鏡を高らかに掲げて、俺の目の高さまでふよふよと飛んできた。

「何その眼鏡」
「この『ヨク・ミエール』を使うと、人間の褌レベルが分かるの。ふんどし妖精ショッピングで買ったんだー」
「へー……」

 駄目だ。
 あまりに色々なツッコミどころがあり過ぎて、脳が考えることを拒否している。

「ためしにいちろーの褌レベルを見てあげるね」
「いや、別にいいから」

 ずっと褌の中にしまいっぱなしだった眼鏡をかけることに何の抵抗もないのか、アニキは俺の目の前で怪しげな眼鏡をかけて「ふんふん」としばらくじっと俺を見つめ、明らかに上から目線のムカつく顔でフッと笑いやがった。

「ぜんぜんダメだね、いちろーは褌レベルゼロ」
「当然だろ、褌なんて締めたこともないんだから」
「えー、締めたことないの?」

 褌のレベルが高くても全然嬉しくないのに、このちびっこ妖精に小馬鹿にされると悔しいのは何故だろう。

「んっ!?……おぉおっ」
「何だよ」
「すごい! すごい!」

 カップ麺の恩も忘れて俺の褌レベルの低さを笑っていたアニキは、何に気付いたのか、突然眼鏡を両手で押さえて興奮したように俺の周りをグルグルと回って飛びはじめた。

「いちろーの左手の薬指に、運命の六尺褌が見える!」
「はっ?」
「しかも、すごく褌レベルの高い人間の六尺褌だよ」
「……」

 運命の六尺褌?

 一応、左手の薬指に視線をやったものの、当然そこには何もない。
 そもそも、運命の六尺褌というのは一体何なんだ。

 事情が飲み込めないなりに何やら嫌な予感を覚えて小さな妖精を捕まえると、アニキは興奮に頬を染めて鼻息をふんふんさせながら、衝撃の爆弾発言を落としたのだった。

「運命の六尺褌っていうのはね、褌野郎の運命のこいびととつながっている、普段は目に見えない運命の褌なの」
「はぁあっ!?」

 褌野郎? 運命の恋人!?

 はいっ! と元気よく眼鏡を手渡され、そんなはずはないと思いながら恐る恐る覗いてみた小さなレンズ越しの薬指には……。

 長くて白い、謎の布が巻き付いていた。



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