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 久々に仲山主任と二人での出張。

 ご機嫌で車を運転して、無事に目的地に着いた後、思っていたよりスムーズに商談も進んで。

 そこまではよかったのに。

「うう……どこまで行っても廊下ばっかり……。トイレはどこっスか」

 何故か今。俺は、今回の商談相手である『星條学園』の敷地内で、盛大に迷子になってしまっていた。


○●○


 欧州ブランドの家具を輸入・販売するだけでなく、自社の製品製造も手がけ、ワンランク上の暮らしのプロデュースをコンセプトに年々市場を広げるインテリア業界でも急成長中の注目株。
 それが、俺が勤める会社『FDC』。

 自社製品の方は良質ながらもリーズナブルな物が多くて客層も様々だけど、輸入家具の方は、たとえ社員割引が効いても新人の俺には手が出せないシロモノばかり。
 当然、顧客名簿に名を連ねるのはそれぞれの業界で一流といわれる華やかな面々や、そういった客層をターゲットにした会社で……。

 だから、今回の客が『学校』だと聞いても、すぐにはピンとこなかった。
 まさか、普通のサラリーマンの年収ほどもするイスやその他もろもろの調度品を、高校生が使うとは思えなかったから。

 でも、この広い敷地と豪奢な建物を見れば、納得がいく。


「と……トイレ……」

 出されたお茶が美味しくて調子に乗って飲みすぎてしまったせいか、帰り際にどうしても我慢できなくなってしまい、トイレを借りたいと申し出たのが今からちょっと前の話。
 親切に「来客用のお手洗いまでご案内します」と言ってくれた担当者に、わざわざトイレまでついて来てもらうのが申し訳なくて口頭で場所だけ聞いた自分を恨みたい。

 歩いても歩いてもトイレらしき場所は見当たらず、気付けば自分が歩いてきたルートも分からなくなってしまったなんて。




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