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○●○


「暇だ…」

 人生初の入院生活が始まってからはや数日。
 俺は、あまりの暇さに自分が廃人になってしまうのではないかと心配し始めていた。

 院長の息子の知り合いだからという特別待遇なのか、それとも単に大部屋のベッドが空いていないだけなのか、あてがわれた病室は広めの個室で、一日に何回か主治医の先生と看護師さんが来る以外に、基本的に人の出入りはない。

 入院初日とその翌日は、労災その他色々な手続きが必要になるとかで総務課の担当者が来たり、課の連中や同期が見舞いに来てくれたりで賑やかだったけど、会社の人間も毎日見舞いに来てくれるほどには暇じゃないだろうし。

「病院に面白さを求める方が間違っている」
「…分かってるけど」

 今や俺の話し相手は、主治医でも何でもないスカしたインテリ眼鏡の新米医師だけになっていた。

「よく毎日顔出すよな。そんなに暇人なのか、お前は」

 見舞いにもらったパズル雑誌に答えを書き込みながら、窓際に立つ白衣の男に皮肉を投げかけると、眼鏡の奥の目が一瞬大きくなった後、唇の端が微かに上がったのが見えた。

「慣れない入院生活で大分ストレスが溜まってるみたいだな」

 八つ当たりしてしまったのが、バレバレだ。
 気まずくなって俯くと、ベッドに影が重なったのが見えて、窓際にいたはずの星住はいつの間にかベッドのすぐ横に立っていた。

「溜まっているのはストレスだけか?」

 からかうような口調と、下半身に向けられた視線。
 その意味が分からないほどガキじゃないし、恥ずかしがるような間柄でもない。
 実際、溜まっている事は溜まっているのだ。

 開き直って、俺は星住の整った顔を睨みつけた。

「分かってるなら何かズリネタになるような雑誌とか買ってきてくれよ。入院って聞いてちょっと期待してたのに、オバチャンばっかじゃねぇか、ココの看護婦」
「本当は若い看護師の方が多いんだが、お前の大好きなおっぱい姉ちゃんは担当から外してるからな」
「えぇ! 何でだよ!」

 刺激の全くない入院生活。少しでも日々の潤いになるような男のロマンを察してくれるのが友情というヤツじゃないのか。
 それともアレか、病院中のおっぱい姉ちゃんは既にコイツのお手つきか。

「お前ってヤツは…友情よりおっぱいを取るのか!」
「馬鹿か。俺だって暇なわけじゃないんだ。つまらない事で嫉妬して時間を無駄にしたくない」

 やけに近距離で囁かれた言葉の意味を、理解しろという方が難しかったかもしれない。
 ただ、本能だけは、これから自分の身に降りかかろうとする危険を察知していた。

 星住の目が、初めてベロチューされた時と全く同じだったから。

「鹿島、俺が抜いてやるよ」




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