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 昔から健康だけが取り柄で、病院の世話になったことなんてなかったのに。
 まさか、自分が入院生活を送るハメになるとは思わなかった。

 しかも、こんなアホな理由で……。



 後輩の平野と一緒に営業で得意先を回って歩いた帰り道。
 歩道橋の階段を上りながら、「前の姉ちゃん、イイ尻ですね」なんて平野がこっそり耳打ちをしてきたから、ついつい何段か上を行くOLのケツをガン見してしまった。
 俺はおっぱい星人なので本来ケツにはあまり興味はないのだが、とりあえず、そう言われれば見てしまうのが男の性というヤツだ。
 が、平野のこっそり耳打ちが聞こえてしまったのか、その女が急に立ち止まって振り向いて……。



「なるほど。般若の形相で見下ろされたのにビビッて後輩の後ろに隠れようと後ずさりした時に、階段のステップを踏み外して転げ落ちた、と」
「なぁ、カルテってそんな事まで書かなきゃだめなワケ?」
「単に俺の好奇心だな。階段から落ちた状況だけ分かればそこまで細かい理由は必要ない」
「……」

 左足をグルグルに固定されて吊るされたベッドの上で。
 俺は、足さえ自由に動けば目の前の白衣姿の男を蹴飛ばしてやりたいという衝動に駆られてぷるぷる震えていた。

 運び込まれた病院で再会したのは、高校時代の同級生。
 ここ『星住整形外科』は、元同級生・星住の父親が経営する病院だったのだ。

「お前、高校の時から全然変わってねぇな、その性格の悪さ」
「鹿島もその頭の悪さは相変わらずだな」
「何!?」
「高校の時も、自転車通学中に近所の女子高の子のブラ紐が透けて見えてたのに気をとられて電柱に激突した事があっただろ」
「ねぇよ!」

 イヤ、本当はあったけど。
 言われるまで本人も忘れていたような黒歴史を、今ここで思い出させないで欲しい。ただでさえ、アホな理由で怪我して入院なんてしなきゃならなくなって、それなりに落ち込んでいるんだから。

 恥ずかしさでいたたまれない俺とは対照的に、星住は冷静な表情のまま、問診表らしきモノにスラスラと何かを書いていた。

 いかにも知性派っぽいノンフレームの眼鏡に、似合いすぎる白衣。
 昔からやんちゃで馬鹿ばかりやっていて、社会人になってからも相変わらずな人生を送っている俺とは男の格が違う気がして悔しい。

 学生の頃から端正な顔立ちと大人びた雰囲気で女子に人気があったけど、今はこの顔でさらに医者なんていったら、それこそ入れ食い状態で女が寄ってくるに違いない。

 性格は、最悪なのに。
  


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