海へ行こう。1
「海でナンパ?」
「そう!夏の思い出づくりに!渉と雄大も来るよな!当然!」
夏期講習の帰りに、暇と体力を持て余した同じ学校の奴らと体育館に集まって、バスケやらフットサルやらで汗を流した後。
シャワーを浴びて着替え終わった俺と井上は、周りを暑苦しい野郎どもに囲まれて身動きが取れなくなっていた。
話の内容は海に行こうというお誘いだが、ギンギンに盛りのついた目が怖過ぎる。
「行かねーよ、興味ねぇし」
海はよくてもナンパ目的というのが気に入らなくて即座にその誘いを断ったが、奴らの熱気はそれで引き下がってくれる程半端なモノではなかった。
「何だよー渉!来ねーとは言わせねぇぞ!」
「お前と雄大をダシにしてオンナノコ達をおびき寄せる作戦なんだからな!」
おびき寄せるって…俺と井上は餌か何かなのかよ。かなり浅はかな作戦ではあるが、皆の目が真剣過ぎて突っ込む事もできない。
どうやらこの計画の発案者らしい吉沢が、井上の肩をガッシリ掴んで揺さぶった。
「雄大っ、お前は来るよな!渉を説得してくれるよな!」
…行くワケねーだろ、井上が。
何しろコイツは女には何の興味もない生粋のゲイらしいし、つい最近まで子供用のプールでも溺れかけていたという天才的なカナヅチなんだから。
そう思ってチラッと井上の方を見ると、いい加減男は吉沢の肩を叩き返して、笑顔であっさり…
「おー!行く行く!松崎は俺が説得するからちゃんと数に入れとけよ!」
何っ!?
「そうか!じゃあ渉の事は任せたぞ!」
「任された!」
「ちょっ…井上、お前…」
「日程決まったら連絡すっから!」
いや、俺は行くって言ってねーし…。
「うぉー!ビーチで水着女子と会話!」
「やべー!想像しただけでイク!」
「それは早過ぎ!」
…お前ら…。
井上の承諾で作戦の成功を確信したのか、何ともイカ臭い盛り上がりとともにその場は一気に和やか解散ムード。
静かになった更衣室に残された俺は、じっとり恨めしい目で井上を睨み付けた。
「何勝手にイイ返事してんだよ!」
「だってあの必死な目で頼まれて断れねーじゃん。アイツら球技大会の時だってあんなに熱くならねぇのに」
悪びれもせずにいつもの食えない表情で笑ういい加減男。
…コイツはこういう奴だ。
「つか俺、泳げるようになったらみんなで海行くとか憧れだったし!」
「馬鹿か!お前こないだやっと25メートル泳げるようになっただけだろーが!そんなのは泳げるって言わねぇんだよ!」
何泳げる気になってるんだ!海を舐めるんじゃねぇ!
とか何とか。
言いかけて顔を向けると、いつの間にか俺と高さの並んだ井上の目が、真っすぐに俺を見つめていた。
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