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 見上げた先には、青い空がある。
 まばゆい太陽は今日もそこに鎮座していて、吹いた風も爽やかだ。
 今日もいい天気だ。
 きっと、航海には最適だろう。
 彼がどこの海域にいるのかは分からないが、ここと同じような天気であってくれたらいいと、俺は思う。
 すう、と息を吸い込んでから、ポケットに手を入れて、指先に触れた紙をつまみ、小さく口を開く。



「マルコ」




 俺が吐き出したそれは、多分相手には届かない。











 朝、鳥の鳴き声がうるさくて目が覚めた。
 けど、水辺が近くてそこそこ山がある近所じゃそれも珍しくなく、会社が倒産してから早起きすることも無くなった俺はいつものようにのそりとベッドの上へ起き上がる。
 くは、とあくびを一つして、大きく伸びをした。

「ピ、ピ、ピィ! ピィィ!」

 それにしても騒がしい。こんなに鳥が騒いでいるなんて、もしやうわさの縄張り争いとかだろうか。野鳥社会も大変だ。
 ちょっと見てやろう、なんて思いながらベッド脇のカーテンへ手を伸ばして、ふと止まる。

「ピィ!」

 鳴き声が、窓の外以外からも聞こえるのだ。
 むしろ外の鳴き声はその鳴き声と呼応していて、まるで必死に励ましてでもいるような。

「……?」

 首を傾げながら窓とは反対側にあるリビングのほうへ顔を向けると、ぱた、ぱたぱたと小さな音を立てた生き物が、そのままべちょりとフローリングへ落ちた。
 青い鳥だ。カワセミより青い。しかも、どういう構造なのか羽根がゆらゆらと揺らめいている。
 両手で持てそうなくらい小さな鳥を凝視して、俺はその羽毛がおかしなことになっていることに気がついた。
 あれは、火だ。

「……は?」

 俺は寝ぼけているのか。
 いやだがしかし、あれはどう見ても火だ。つまりあれは火の鳥だ。
 火事になる、という言葉が頭に浮かんで、慌ててベッドから立ち上がる。
 その間にも小鳥は何度か飛ぼうと羽根を動かし、そしてなぜか失敗してべちょりとフローリングへ落ちていた。点々と鳥が移動しているが、フローリングには焦げた跡もにおいも無い。
 何故だ、と鳥を観察しながらそちらへ近づいた俺に気付いて、鳥がその顔をこちらへ向ける。
 そうして硬直したかと思ったら、その姿が唐突に変貌した。




「え」

「……ひっ」



 さっきまで小鳥がいたはずのそこにいたのは、怯えた顔をした小さな子供だった。




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