- ナノ -
TOP小説メモレス

君へ心から
※『君シリーズ』設定



 明日は、マルコの誕生日だ。
 俺がそれを知っているのは、もうかなり以前に読んだ『コミックス』にそれが書かれていたからだった。
 きちんと日数を確認して、ちゃんとマルコのための誕生日プレゼントも用意した。
 大所帯である白ひげ海賊団で、一クルーの誕生祝いをすることなんてほとんどない。例外はこの海賊団をまとめ上げる『白ひげ』エドワード・ニューゲートくらいなものだ。
 それでも大体何日かに一回は酒盛りをするし、酒好きな船長のおかげで宴も頻繁なので、それでまとめて祝われることも多いらしい。
 明日は久しぶりに島へ着くようだし、今日の夜はその『前祝い』をするだろうから、マルコの誕生日も誰かが言い出して祝うことだろう。
 マルコの誕生日を一緒に過ごすのは初めてだ。
 おめでとう、と言われて、マルコは一体どんな反応をするのだろうか。
 喜ぶのか、驚くのか、戸惑うのか、楽しむのか。
 知らないマルコの顔を想像してみても、うまく行くわけがない。
 早く明日が来ないものか、なんて考えながら俺が膝の上の贈り物をひょいと持ち上げたところで、扉がノックも無く開かれた。

「ナマエ、いるかよい」

 そうして声を掛けてきたのは、俺と同室であるマルコだ。
 その姿を目にいれた瞬間、俺は思わず持っていた物を自分の体の陰に隠していた。
 自然な動きを心掛けたものの、どうにも不審に見えたらしく、俺の方を見たマルコが怪訝そうな顔をする。

「……ナマエ? 今、何隠したんだよい?」

 そうして近寄ってきながら尋ねられて、いいやなんでも、と答えつつ包みを背中に庇う形でマルコへ体を向け直した。
 俺の返事に眉を寄せたマルコが、こちらを見て目を眇めたまま、そうかい、とだけ言葉を口にした。
 そして、それからほんの少しの沈黙を置いて、その体が急な動きで持って俺の後方へ回り込もうとする。
 けれども何となくそうする気がしていたので、マルコが数歩の距離を急激に詰めてくる間に包みを掴んだ俺は、俺の後ろを覗きこむマルコに合わせて包みを背中に庇ったままで体をよじることに成功した。
 結局俺の正面に収まる形になったマルコが、ベッドに片腕をついて不満げな顔をしている。

「何隠してんだよい」

「いいや、何も」

「どう見たって隠してんだろい!」

 正面から言葉を投げられて、どうしたものか、と少しだけ考えた。
 別にサプライズがどうとか考えるほど子供ではないし、大したものを買えたわけでもないのだが、せっかく買った誕生日プレゼントなのだし、やはりこういうものは誕生日に渡すものではないだろうか。
 けれども俺のそんな考えを、服を掴んできたマルコの手が揺さぶり始める。

「ナマエ、おれに隠しごとすんのかよい」

 じとりとこちらを睨んで言葉を放つマルコに、いや、と声を漏らした俺は、身を寄せてきたマルコの青い目を正面から見つめ返した。
 じっとこちらを見つめるマルコの両目は、小さな頃とそれほど変わらない。
 丸ごとこちらを信じているようなその目を見ていると、何だか日付にこだわるのも大人気ないような気がしてきて、俺は少しばかりため息を吐いた。
 俺がマルコに隠すのは、一つだけだ。
 それ以外で、わざわざ秘密を作って、マルコに嫌な思いをさせても仕方ない。

「…………これだ」

 近すぎるマルコから身を引きつつ、後ろ手に持っていた物をひょいと自分とマルコの間に取り出す。
 先日モビーディック号が出立した島は、随分と栄えた町のある島だった。
 島での最近の流行だと言う店で買ってきた贈り物の包みは、随分と豪華だ。
 過剰包装の国というのは日本だけなのではないかと思っていたのだが、そうでもなかったらしい。

「これ……誰から貰ったんだよい?」

 俺が持っている物を見やって、何故かいまだ眉間に皺を刻んでいるマルコがそんな風に言葉を寄越す。
 おかしな勘違いをしているマルコに気が付いて、俺は軽く首を横に振った。

「別に貰い物じゃない」

「………………『誰か』から貰ったから、隠してたんじゃねェのかよい」

 俺の発言にそう言い放ったマルコは、どうやら俺の言葉を信用していないらしい。
 誰かからの貰い物だったら、それこそわざわざ隠す必要もないのではないだろうか。
 そんなことを考えつつ、俺は持っていた物をマルコへ向かって差し出した。

「マルコへだ」

「…………おれに?」

 マルコの方へ包みを押し付けるようにしながら言えば、ぱちりとマルコが瞬きをする。
 不思議そうなその顔を見ながら頷いてやると、そこでようやく近かった体を俺から離したマルコが、その手で恐る恐ると俺が差し出したものを受け取った。
 戸惑い交じりのその顔を見やりながら、明日誕生日だろう、と言葉を放つ。

「だから、誕生日が来た時に渡すつもりだったんだ」

 見やった時計は、あと六時間足らずで誕生日が来ることを示している。
 マルコが部屋に来る前にどこかへかくして置けばよかったな、なんて考えてみたが、見つかってしまったものは仕方ないので、俺はできる限りの微笑みを浮かべてマルコへ視線を戻した。

「まだ少し早いが、誕生日おめでとう、マルコ」

 囁くように言いながら、目の前の彼を見つめる。
 俺が知っている『マルコ』よりずいぶんと大きく育ったマルコは、今日と同じ日を何度も何度も過ごしてきたはずだ。
 今みたいに『おめでとう』を言われて、一体どんな顔をしてきただろう。
 喜んだだろうか、驚いただろうか、戸惑うのだろうか、楽しんでくれるのだろうか。
 『誕生日のマルコ』を見るのは初めてだ、なんて思いながら目の前の相手を観察して、一分ほど後。

「…………あ……ありがとう、よい」

 どうやら、祝われたマルコは照れることの方が多かったらしい。
 ぎゅうと片手で包みを掴んだまま目を逸らしたマルコに、俺はそう把握した。



end

:
戻る