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俺が医務室にいる間に、ティーチは船を降ろされたらしい。
結局、悪魔の実が『ヤミヤミの実』でなかったという事実は、マルコと白ひげの間だけで収められてしまったようだった。
ティーチは多分、今頃気付いて怒ってるんじゃないだろうか。
それとも、騙されたという事実には気付かずに、勘違いをしてしまった自分に憤っているだろうか。
どちらかなんて、会う予定も無い俺には分からない。
「ナマエ、ここにいたのかよい」
声を掛けられて、俺は近寄ってきたマルコを見やった。
しばらく寝たきりだったから、リハビリをするようにと言われて、今日はモビーディック内を散歩している。
広い船内を歩くのはなかなか疲れることだったから、今は甲板で休憩中だ。
さっきまで仕事中だったはずのマルコは、どうやら俺を探しに来てくれたらしく、座り込んだ俺の横に腰を下ろした。
「マルコ、さっきサッチが探してた」
「あァ、いいんだよい、放っとけ。それよりナマエ、明後日から訓練やる気だってハルタから聞いたが、本気かよい」
「ん、本気。駄目?」
「駄目に決まってんだろい」
一緒に並んで座って、取りとめも無い話をする。
ちらりと傍らを見やった俺は、マルコが座って放り出した右手に視線を止めて、そろりと左手を動かした。
あと少しでマルコの手に触れる、と言った距離まで動いたところで、俺が狙っていた場所からマルコの手が消える。
あ、と声を漏らす前に、動いたマルコの右手が俺の左手を捕まえて、しっかりと上から握り締めてきた。
「何可愛いことしてんだよい」
言葉を寄越したマルコを見やれば、にやりと笑っている。
何だか悔しい気がして、俺はじとりとその顔を睨みつけた。
「俺、何もしてない」
「人の手ェ握ろうとしてたくせによく言うよい」
「握れてない。マルコがやってる」
そう非難すると、仕方なさそうに手の力を緩めたマルコが、今度は俺と掌をあわせて、指を絡めるようにした。
「じゃあ、これならいいかよい」
「…………ん」
そうして楽しそうにそう言うので、仕方なく俺は妥協してやることにする。
少し顔が熱い気がしたけど、甲板に吹く潮風は冷たかったので丁度良かった。
もしかしたら今のマルコは、他のクルーから見れば『変』なのかもしれない。
けれども俺にとっては『元』に戻ったマルコで、こうして傍にいてくれたり手に触れてくれたりするのが、どうしようもなく嬉しくて。
通りかかったイゾウにからかわれるまで、俺とマルコはそのまま、手を繋いで甲板の端に座り込んでいたのだった。
end
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