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おかたづけ
※日記より転載


「マルコ、いい子にしてたか?」

「マル、いいこよい!」

「ではこの部屋は一体何事だ」

「……なにごと、よい?」

「聞きたいのは俺だ……」

 昼食後、うつらうつらしていたマルコと一緒に昼寝をしたのは、時計を見る限り大体一時間ほど前のことだ。
 俺は小さくため息を吐いた。
 そんなに広いわけでもないリビングは、現在ぐちゃぐちゃの状態だった。
 ティッシュが箱から全て引き出され、フローリングをぐしゃぐしゃの状態で覆い、俺のベッド脇からひっぱり出してきたんだろう雑誌やら本やらがあちこちに散乱している。
 窓ガラスをキャンパスに昨日買ってやったクレヨンで芸術的なアートを作り上げたのだろうマルコの手は、青や黄色やそのほかの色で汚れていた。絵の具を買わなくて本当によかった。
 俺の表情を伺ったマルコが、そうっと言葉を零す。

「ナマエ、おこってるよい?」

「いや」

「! なんでおこらないよい!」

 怒られることをしたという自覚があるのか、マルコ。
 その場に屈んだ俺は、とりあえず足元のティッシュをつまんだ。
 五箱300円足らずの二枚組ティッシュには申し訳ないが、これを集めて再利用する気持ちは俺には無い。
 一枚、二枚と拾い上げて、ある程度束になったそれを片手に、俺はちらりとマルコを見やった。

「怒るより、片付けたほうが早い。それに、マルコくらいの年のころは俺もこのくらいのことはやったからな」

 確か襖にマジックでお袋を描いたのが、そのくらいの頃だったはずだ。ものすごく怒られたが。
 俺の言葉にきょとんとした顔をしてから、マルコはむうっと眉を寄せた。ついでに言えば唇も尖らせて、まるでひよこみたいだ。

「わるいことしたらおこるもんだって、たいちょーがいってたよい」

「悪い事をしたって分かってるんだろう?」

「……したよい」

 聞いてみれば、しょんぼりと小さな肩が落ちる。
 ごめんなさい、と小さな声がその場に落ちた。
 謝るくらいならやらなけりゃいいとは思うが、小さな子供にとって遊びたい気持ちを我慢するのは難しいのも分かる。
 分かってるんならそれでいい、と小さな頭を軽く撫でてから、俺はマルコの小さな手にティッシュ箱を持たせた。

「ほら、片付けるぞ。マルコは手伝えるいい子だよな?」

「…………よい!」

 俺の言葉に、元気よくマルコが返事をする。
 それからせっせとティッシュを拾い集めて小さな体を動かす様子に、やれやれと息を吐いた俺も掃除を再開することにした。



end

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