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 それからしばらく、俺とマルコと子供は、基本的に一緒に行動していた。
 船内に慣れてきたらしい『マルコ』は俺以外とも一緒にいるようになったし、他のクルー達やマルコと一緒にいるときも楽しそうにしていた。
 マルコが世話を焼いているときの姿を見るとまるで兄と弟か父と子のようで、随分とほほえましい。
 そんな風にイゾウに言ったら俺と子供が一緒にいるときも親子か兄弟のようだと言われたのだが、俺自身ではよく分からない。
 もうじきログが溜まると聞いて、もしかしたら『マルコ』が擬態をやめる前に出航するんだろうかと思ったのが、つい昨日のこと。

「さて……どこに隠れたかな」

 今日はかくれんぼをしたいと『マルコ』が言ったから、鬼役になった俺はあの小さな子供を探してモビーディック号の中を歩いていた。
 白ひげの部屋にもいなかったし、俺達の部屋にもいなかった。
 甲板にもいなかったからやはり船内だろうと足を動かして、手近な空き部屋から覗きこんでいく。
 一つ、二つと扉を開けては締めて歩く俺に、ナマエ、と声が掛かったのは、船倉へ降りる階段の手前だった。

「マルコ?」

 さっきかくれんぼに誘った時は仕事があるからと断ってきたはずのマルコが、少し息を弾ませながらそこに立っていた。
 どうやら走り回ったらしいマルコに首を傾げて、階下に降りようとした足をマルコの方へ向ける。

「どうかしたのか?」

 とりあえずそう尋ねると、俺の周りをきょろりと見回したマルコが、一度深呼吸をしてから言葉を紡いだ。

「ナマエ、あいつはいねェのかよい?」

「ああ、今ちょうどかくれんぼをしているから……」

 俺も探しているところなんだ、と告げると、眉を寄せたマルコが、そうかよい、と小さく呟く。
 その肩が心なしかがくりと落ちているように見えて、どうしたのだろうかと俺はマルコの顔を見やった。
 数秒置いて、もう一度こちらを見たマルコが、俺の腕を捕まえる。

「それじゃあ、前に言ってた『基地』ってのはどこに作ったんだよい」

「秘密基地か? それなら、イゾウ達の隊が管理している倉庫に作ったんだが」

「わかったよい。行くよい」

 秘密だと言われていたが『マルコ』自身になら言いだろうと場所をばらした俺に、頷いたマルコが足を動かす。
 俺の腕を掴んだまま歩き出したマルコにひっぱられて、俺もその場から足を動かした。

「どうかしたのか?」

 すたすたと足を動かしながら、とりあえず隣に並んでそう尋ねる。

「……思い出したんだよい」

 俺の問いかけにそんな風に答えが返ってきて、言葉の意味をかみしめるために俺はぱちりと瞬きをした。
 俺がきちんとそれを理解する前に、たどりついた倉庫の扉にマルコが手を触れる。
 鍵がかかっているはずのそこは空いていて、ぎい、と小さく音を立てた。

「マルコ、いるかよい」

 中へ向かって声を掛けたマルコが、そのままそっと中へ踏み込むのを追いかけて、俺も倉庫の中へと入る。
 小さな窓のある倉庫は随分と明るくて、そして静かだった。
 左側から奥へ歩いていくマルコから離れて、子供が『秘密基地』を作っていた一角へ足を進める。
 窓から一番近いそこには、どうしてかきちんと片づけていったはずの本が落ちていた。
 その横に、ここ最近他のクルーから貰ったという『マルコ』の『宝物』が並んでいる。
 そうしてその真ん中に、ぽつんと、小さな種が落ちていた。
 少しばかり皮を破って伸びている小さな芽は、俺がよく見ていた、子供から生えていたあれとそっくりだ。

「…………なるほど」

 声を漏らして、落ちていた小さな種を拾い上げる。

「いたかよい」

 反対側からたどり着いたマルコに尋ねられて、俺は答えの代わりに手に持っているものをマルコへ見せた。
 俺の掌を見やったマルコが、少しばかり顔をしかめる。
 怒ったり不快に思っているというよりも、どこか寂しげに見えるその顔を見やってから、俺は棚の端に置いてあったあの鉢を棚から取り出した。
 少しばかり土に穴をあけて、種をそこに入れてやる。芽がきちんと見えるようにしながら土を掛け直して、改めて両手で鉢を持った。
 倉庫から出して、水でもかけてやろう。日光に当ててやらないといけないだろうが、あまり長時間あてるものでもなかっただろうか。
 湿った土を指から払いながらそんなことを考えつつ、改めてマルコへ視線を向ける。

「この土は『リリカモドキ』が育ちやすい土らしい」

 そう言って、鉢を持ったままで少しばかり笑った。

「綺麗な花が咲くといいな」

 呟いた俺の言葉は、あの子供にも聞こえただろうか。
 やや置いて、そうだねい、と呟いたマルコの声も、同じように届いてくれていたらいい。




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