18
「ナマエ―!」
「うっ」
朝、そろそろ起きようかと思ったところで、どすりと腹部を攻撃された。
思わずうめいてしまってから仕方なく目を開ければ、俺の腹の上に座った子供がにこにこと笑ってこちらを見下ろしている。
「おはようよい、ナマエ!」
「何してんだよい」
とても楽しそうな顔をした相手に、苦しいと訴えるべきか悩んでいたら、ひょいと俺の上から子供の体が取り除かれた。
昨日風呂に連れて行った時のように子供を小脇に抱えたマルコが、呆れた顔で自分が抱え上げた子供を見下ろしている。
「寝てる人間に飛び乗ってんじゃねェよい、腹になんか乗ったら苦しいだろうが」
とてもまっとうな意見がマルコの口から飛び出している。
その事実にぱちぱちと眠気を払うように瞬きした俺の横で、小脇に抱えられたままの『マルコ』が不満げに口を尖らせた。
「でも、ナマエはとびのらないとおきないよい」
「い、いや……それは誤解だ」
そうして寄越された恐るべき主張に、とりあえず起き上がりながら口を挟む。
そろそろ起きるべきだとは思っていたのだ。
先に起きた『マルコ』がもぞもぞと身じろいでいたし、世話をしなければならないことくらいわかっている。
それでももう少しベッドに横になっていたいと思っただけなのだが、まさかそんな誤解をされているとは思わなかった。
俺の言葉にこちらを見た子供が、こてりと首を傾げる。
「でも、そうしなきゃおきなかったよい?」
「いや、それは……」
「そんなの、起きる踏ん切りにしてただけだろい。ほら、とっとと顔洗いに行くよい」
俺の反論を待たずにそう言い切って、マルコが子供を小脇に抱えたままで歩き出す。
ドアの手前で足を止めてからこちらを振り返って、ナマエも早くしろい、と声が投げられた。
「こいつが、今日も島に降りたいんだとよい。ナマエ、今日は休みだろい?」
寄越された言葉に、そういえばそうだった、と頷く。
俺の言葉に、おそとにいくよい! とパタパタ足を動かした子供は、宙を泳ぐようにしながらそのままマルコによって部屋の外へと連れ出されていってしまった。
その様子を見送ってから、俺もとりあえずベッドを降りる。
子供が戻ってきた時に着替えさせられるように服を出して置いてから、自分の服は後でいいかと判断してそのままマルコの後を追いかける。
通路に出ると、先を歩いているマルコの背中が見えた。
まだ子供は小脇に抱えられていて、どうやら自分の現状を楽しむことにしたらしい子供はさっきと同じように宙を泳ぐように暴れている。
「おい、大人しくしろい」
「マルとんでるよい! もっとはやくいくよーい」
「…………何が楽しいんだよい……」
暴れる子供にため息を吐きつつ、それでもマルコは子供を降ろすつもりはないようだ。
きゃふきゃふと笑っている子供とマルコの背中に、仲良くなったのか、と俺は少しばかりほっとした。
子供はそうでもなかったが、マルコはどうもあの『マルコ』に対して微妙な反応をしていたから、ああやって構うようになるとは思えなかったのに。
子供がいなくなるまでは同室でなくてはならないのだから、仲良くしてくれるならその方がいい。
裸の付き合いが良かったんだろうか。
それにしても、同じ髪形で同じ話し方の二人がああやっていると、まるで兄弟みたいだ。
何だかうらやましいと思いながら、俺はそのまま二人の後を追いかけた。
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