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おめでとうのきもち (1/3)
※『賢い子供』『日常茶飯の風景』『君と一緒が一番』の続き
※主人公は転生幼児(有知識)
※サカたん
※なのにほとんどサカズキさん不在



 これは使命だと、子供が拳を握った。

「だから、てつだって!」

 そのうえで真っ向から乞うてきた相手に、オォ〜、とボルサリーノが声を漏らす。
 その唇が笑みを浮かべて、自分を見上げて瞳をきらめかせる子供を見下ろした。

「サカズキの誕生日を祝うんなら、二人でがいいんじゃねェのかァい?」

 来る八月十六日は、海軍大将『赤犬』の誕生日だった。
 きっと知らないだろうと考えたボルサリーノが子供にそれを教えてやったのは、サカズキが拾ってきた幼い孤児が、それはそれはサカズキを慕っているということを知っているからだ。
 その上ボルサリーノの同胞がそれを憎からず思っているのだから、たまには嬉しいことや穏やかで楽しいことがあってもいいだろう、という年上の同僚としてのやさしさである。
 それを聞き、ボルサリーノの予想通り瞳を見開いて『知らなかった』と騒いだ子供は、それからすぐに何かを考え込んで、拳を握ってボルサリーノの予想外の言葉を口にした。
 いわく、『みんなで誕生日祝いをするから場を用意する手伝いをしてくれ』と言うことだ。

「そんなに大げさなことしたら、困っちまうよォ〜」

 少し年下で悪を根絶やしにすることを信条に掲げる海軍大将が、群れて周りに合わせることが苦手なことはボルサリーノも知っている。
 ボルサリーノから見れば不器用だなと思うほどにサカズキは自分の正義を掲げることに忙しく、その正義に同調する者しかその下には残らない。
 今はそんな様子もないが、もしも小さな孤児がそれらの影響を受けて過激な思想に染まりそうだったなら引き離すために、海軍元帥からもそれとなく様子を見ておくように言われている。
 それはともかく、そうやって上手に群れることのできないサカズキが、誕生日を急に大勢に祝われてしまったら、それはもう仏頂面で困ってしまうことだろう。
 見たい気もするが、マグマの被害に遭うのは面倒である。
 渋るボルサリーノを見上げて、ナマエと言う名の子供が眉を寄せる。

「……しゃかずきのたんじょうび、いわいたくない?」

 困ったように、そして非難がましい視線がぶすぶすとボルサリーノの顔を突き刺した。
 まるで人でなしを見るようなその眼差しに、そうは言わねえけどォ、とボルサリーノが言葉を零す。
 その手がひょいと角印を持ち上げて、朱肉を付けた面を書類へぐりぐりと押し付けた。
 指を汚さないように気を付けてそのまま印鑑を机の端に置き、今しがた押印したばかりの書類をひょいとつまんでひらひらと揺らす。
 渇きの悪い朱肉を乾かしながら、ボルサリーノは口を動かした。

「あんまり大勢じゃァ、場所を確保するのも大変だしねェ〜」

 ナマエとサカズキが二人で過ごせるような手配はしてやるよォ、と言葉を落としたのは、これで話題を打ち切るためだった。
 しかしそんなボルサリーノを見上げて、ここまでボルサリーノから書類を受け取るためにやってきた小さな子供が、何も持っていない両手をボルサリーノの方へ突き出す。

「おれと、しゃかずきと、くざんたいしょーと、しぇんごくさんと、つるちゅーじょーと、がーぷちゅーじょーと、せんせーと」

 そうして舌ったらずな声で名前を呼びながら指を折り曲げ、端まで行かなかったそれをもう一度揺らしてボルサリーノへと示した。

「こんだけだから、おおじぇいじゃない!」

 大丈夫、と何やらきりりと顔を引き締めた子供は、どうにも頑固だ。
 一度『これ』と決めたら諦めないのは拾い主に似たものなのか、それとももともとそういう性格だったのか。
 どちらかは分からないが、ややおいてため息を零したボルサリーノは、近くにあったその手を捕まえ、曲げられなかった指を一本折り曲げさせた。

「手伝わせといてわっしを仲間外れにしたら寂しいじゃねェかァ〜」

 ちゃんと祝うからさァ、と声を漏らしたボルサリーノからの発言に、ナマエは目を瞬かせた後、にまりと笑った。
 自分の企みが成功したと言わんばかりのその顔に、片眉をあげたボルサリーノの指先がわずかに発光する。
 攻撃力の無いただの光は、しかしその輝きでもってして間近にあった子供の網膜を攻撃した。

「めが!」

「オォ〜、ごめんねェ〜」

 思い切りのけぞった子供が、一人で勝手に床に倒れて転がった。
 ごろごろ転がって両手で目を抑える小さな子供へ、海軍大将黄猿はまるで心のこもっていない謝罪を零す。
 この子供はただの子供である癖をして、時々大人のような顔をするなと、ボルサリーノは少しばかり思った。




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