ガルディア (1/3)
※アニマル転生無知識主人公は捏造亀でカメカメ鳴く映画仕様
※映画『GOLD』以前
※映画キャラばかり出ますので注意
※名無しオリキャラ注意
「カメ……」
口から鳴き声と涎が漏れる。
慌てて口を閉じ、前足でぐいと口元を拭った。
しかし、仕方がない。見渡す限り『ごちそう』でいっぱいなのだ。
のし、と足を動かしてその場から歩き出し、物陰から周囲を確認する。
隠れている柱の色味のおかげか、俺に気付かず目の前を行き来する『人間』達は、俺が見あげるほどの大きさだ。
彼らが特別大きいのではなく、俺がまあまあ小さいためである。
普通のサラリーマンだった俺が事故で死に、この世界に『生まれた』のは、もう数年も前のことになる。
目を開けた時には輝くような色味の何かを齧っているところで、堅いだけのそれが美味しいという事実にはとても困惑した。
俺は一人きり、いや一匹きりで森の中にいて、多分土の中から無意識のうちに這い出て来たらしい。
目が見えるようになってから、自分がかじっていたものが『卵の殻』に近いということにも気が付いた。
そして、どう考えても人間じゃなかった自分の見た目が、どうやら『亀』らしいと分かったのは近くの川へと向かった後のことである。
しかも全身が金色に輝く、もしも人里に現れれば騒ぎになりそうな風貌だった。
クラスで銭亀を飼っていたことはあるが亀の餌なんて周囲には無かったし、これは野草や虫を食べなくてはならないのかと絶望的な気持ちになった俺が、自分の食性が『鉱物』だと気付いたのはそれからすぐだ。
ただの石ころでも腹は満たされるが、今まで食べた中で一番うまかったのは生まれてすぐにかじった卵の殻だった。
思えばあれは黄金で出来ていたんだろう。
その次にうまいのは脱皮の際に自分からはがれた甲羅だから、俺自身も黄金で出来ているのかもしれない。
自分が『カメカメ』と鳴くことに気付いたときは困惑したが、もしかしたら俺が知らなかっただけで亀はそうやって鳴くものだったのか。
もしくは、俺自身が少なくとも俺が図鑑で見たことはない生き物だから、未開の地に住む未知の亀で、そうやって鳴く種類なのかもしれない。
俺が人間だったら見つけて連れて帰って種族名に自分の名前を織り込むところだ。
とにかく、食べられるものを探して育ちながら、俺は一匹ぼっちで生きてきた。
そして二週間前、森の奥で見つけた『ごちそう』入りの箱に入って、黄金で出来たコインに埋もれて幸せの眠りについていたところ、気付けば見知らぬ場所にいた。
驚いてこそこそと周辺を動き回り、どうやら自分が船に乗り込んでしまったと気付いて、この島でこっそりと船を降りた。悪い顔をした人間が多かったので、もしも見つかったらどこかに売り飛ばされていたかもしれない。偏見で申し訳ないが、身の危険を感じたのだ。
船は当然船着き場にあり、水に飛び込むのには勇気を振り絞ったが、俺はどうやら泳げる陸亀だったらしい。
そして何とも素晴らしいことに、この島にはまるで黄金郷のようなたたずまいの街があった。
空から金粉が降り注ぎ、水にまで金が混じっているというのだから驚きだ。
見渡す限りの建物や柱も同じで、今俺がくっついている大きな柱も黄金で出来ている。金メッキの偽物でないということは、何より俺の嗅覚が証明している。
「……カメ……ッ!」
ぐう、と腹が鳴り、辛抱たまらずすぐそばの柱に噛みついた。
金特有の柔らかさを気にせず噛みちぎり、うまうまと味わって飲み込む。
今まで食べたことのないようなそのうまさは、空腹感と相まって、かつて食べた思い出補正のあるあの卵の殻と同等の、最高の味わいに思えた。
しかも、ここには俺には食べつくせないほど途方もない数があるのだ。
もはやこの町で野良亀になる心を決めた。都市伝説にあるように、地下で生きて行けばいいかもしれない。時々出てきて金を頂く生活は素晴らしいのではないだろうか。
そんな、夢のような生活を想像しながら口を動かしていた俺は、それゆえに背後に現れた人影に気付かなかった。
「するるるる……貴方、それは困りますよォ〜」
「カメ!?」
言葉と共にひょいと体を持ち上げられて、驚きの声をあげる。
その拍子に口から黄金の塊がころりと落ちて、もったいなさに慌てて身を捩った。
しかしそんな俺を掴み直して、暴れないでください、と声が掛かる。
自分の体を持ち上げられていると気付いて首を巡らせた俺は、自分を持ち上げている『人間』のおかしな姿に目を見開いた。
なんだかとんでもなく、顔がでかい。そのサイズの黒頭巾はその辺の店で売っているんだろうか。それとも特注品なのか。
いや、頭身もおかしい。頭の大きさと俺が今いる高さから考えると、この『人間』は二頭身かそのくらいということになってしまう。そしてどうしてだか、少しばかり金の匂いがする。
困惑して眼を瞬かせる俺を見下ろし、おや、とその不思議な『人間』が口を動かした。
「貴方、マッスルガメじゃあありませんねェ」
これは『自前』ですかと俺の体を勝手に撫でまわして寄越された問いかけに、カメ、と訳も分からないまま鳴き声を零した。
ふうむ、とその口が言葉を零して、やっぱり二頭身だった『人間』が俺を小脇に抱え直す。
「これはひとまず、テゾーロ様にご報告しなくては」
言葉と共にするるると鳴き声を零した『人間』が、そのまま床に体をめり込ませる。
「カメッ カメッ カメ、!」
やめてくれとじたばた暴れても叶わず、俺もそのまま床へと飲み込まれてしまった。
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