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サイズ詐称
※『食う子と寝る子は育つ』の続き?
※エースくんが原因不明のまま見た目のみちびっこになるというグランドラインご都合主義



 すりすりと、滑らかな毛皮に頬ずりする。
 こんな風に乗っかれんのも悪くねェなァ、なんて零したエースは、『火拳』の手配書とはまるで違う姿をしていた。
 普段だったら、いくらナマエが大きいとは言っても、その背中に全身を預けてだらりと過ごすなんてことはしなかっただろう。
 ましてやナマエは甲板に腹ばいになっているのだから、エースがそうすればだらしなく脱力したエースの手や足も同じく甲板に触れているはずだ。
 しかし、今のエースはその全身が大きな獣の上にあって、他には何も触れていない。
 食事中にいつものように眠りに落ちて、目が覚めた時には、エースの体は幼くなってしまっていたのである。
 数日経って判明したその原因は、どうやら停泊していた島でエースが口にした果実だったらしい。
 エースの知っている『びわ』に似ていて、しかし熟していなかったのかまるで旨くなかったそれをエースはしっかり『びわ』だと思い込んでいたのだが、同じように小さくなったクルーを小脇に抱えて戻ったマルコによりそれが発覚した。
 毒を摂取したようなものだから、それならば解毒剤を作ればいいだけのことだということで、今は船医が大忙しだ。
 もうじきこの小さな肉体ともお別れとなるとなんとなく惜しくなり、エースは甲板の上で寝ていたナマエへと飛び乗った。
 獅子と虎を混ぜたような不思議な獣であるナマエは、昼寝を邪魔されても怒ることなく、そのままエースを背中に乗せている。

「ナマエー」

 エースが上から呼びかけると、ぐるるる、と喉を鳴らすような返事が寄越された。
 そのまま上でパタパタと両足を動かして、伸ばした両腕でナマエの体へとしがみつく。
 今のエースの腕はどうしようもなく短くて、やはりしがみつくようにしかできない。
 日向の匂いのする毛皮になつきながら好きなようにしていると、ふとエースの上に影が落ちた。

「んあ?」

「何してんだ、エース」

 頬をナマエへ預けたままで視線を向けると、エースを上から見下ろして笑っているクルーがいる。
 コックコートを着込んできちんとリーゼントを整えた相手を見上げ、ナマエの邪魔をしてんだ、とエースは答えた。

「こいつ、おれがこうなった時はあんなに心配したのに、今はおれをほったらかして昼寝までするんだぜ」

 『問題ない』というエースの説明をきちんと受け止めた結果ではあると思うが、何とも面白くない話である。
 わずかに唇を尖らせたエースへ対して、寝かせてやれよと笑ったサッチの手が、エースへと伸びる。

「こーんなにチビになっちまったんだから、ナマエと一緒に昼寝でもした方がでかくなれるんじゃねェか?」

「チビじゃねェ!」

 ぽんぽん、と小さな頭を軽くたたかれて、エースはそう抗議した。
 今は一時的に小さくなっているだけで、エースは『ちび』なんていう部類には入らない程度の大きさには育っている。
 確かに今は小さいが、そういわれると抗議したくなるのは男のさがだろう。
 見てろよ今にオヤジくらいでかくなってやるからな、と唸ったエースへ、おう頑張って育て、と応えたサッチはにやにやと笑っている。
 まるで子供を見下ろすようなその視線に、ぐぬぬと声を漏らしたエースの体の下で、もぞりとナマエが身じろいだ。

「お? ナマエ?」

 伸びをしたのか、起き上がったナマエが腰を高く保ったまま頭側だけを低くして、体を突っ張る。
 その背中にしがみついていたエースの体が毛皮の上をするりと滑って、豊かなたてがみを宿したその頭に引っかかって止まった。
 そこでゆるりと姿勢を戻され、エースの両手がナマエの頭を捕まえる。
 その状態を確認したかのようにぴくりと耳を動かしてから、ナマエがさらに大きく体を動かした。

「うわっ」

「……は?」

 短く声をあげたエースのすぐそばで、サッチが少し間の抜けた声を零す。
 なぜならば、二人とともにいた獣が、その体を縦にしたからだ。
 後ろ脚と細い尻尾で体を支えているような姿勢で、太い前足が小さく折りたたまれている姿は、人間でいうなら直立の姿勢である。
 獣がやるにはまるでありえない姿だし、わずかにその身が震えていることからも、無理をしているのが分かる。
 ナマエの頭にしがみつくようにしていたエースは、慌ててその肩口あたりに両足をあげて、肩車されるような姿勢になってから、改めてナマエの頭を抱え直した。
 そのまま、ナマエが見ているほうを同じく見やれば、少し身を屈めていたサッチがぽかんと口を開けている。
 その頭の位置が少し低いのは、サッチが身を屈めているということ以上に、ナマエが普通の虎や獅子よりも大きく、エースがそれより頭一つほど上に視点を置いているからだ。
 がう、ともぎゃうともつかぬ鳴き声がナマエの口から漏れて、その意図を把握したエースの口が、にやりと笑みを乗せた。
 ふふん、と鼻を鳴らして、勝ち誇ったような顔で口を動かす。

「……サッチも大したことねェな」

 おれのほうがでけェだろ、と子供のように言い放てば、驚きと困惑ばかりを表していたサッチの目がわずかに見開かれ、それからやがてその唇が笑みにゆがむ。

「…………ははっ 悪ィ悪ィ、男だもんなァ!」

 こらえきれなかったのか、ゆっくりと姿勢を戻したナマエの上に座ったエースの頭を、サッチがそんな風に言ってぐしゃぐしゃと撫でまわす。
 あたたかく力の強い掌に『やめろよ』とエースが非難の声を上げると、ぐる、と喉を鳴らしたナマエが身を引いた。
 しかしそれすら面白がったサッチがさらに頭を撫でて、それを見かけた他の『家族』が同じようなことをして。
 夜に体がもとに戻っても同じようにされて、エースの髪はその日ずっとぐしゃぐしゃのままだった。
 誠に遺憾である。



end


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